【エモいマンガ大賞 2019/すべての男子に捧げる編】
「それはただの先輩のチンコ」(阿部洋一・著/太田出版・刊/既刊1巻のみ)
好きだからひとり占めしたくなる「チンコ」…女子高生の疾走する恋心、全男子が共感確実の衝動が備わった怪作
阿部洋一先生は、ちょっと不思議な読後感のファンタジー、ホラー作品を描く作家で、本作も「女子高生が好きな男子のチンコを切り取って愛でる」という謎すぎる設定。切り取られたチンコは動物みたいに薄く意思を持っていたり、チンコを失った男子も「いてっ!」くらいで割と平然としているし、後からチンコは再生するしカジュアルに読めるフィクション設定になっています。チンコの外観は普通に「チンコ」として描かれていますが、スイカをシャクシャク食べたり、お風呂で泳いだりなんだか可愛らしいです。
可愛いのはチンコだけでなく女の子も。女の子たちがあまりにひたむきにチンコを求めるため、猟奇的なチンコとの接し方もとてもピュアな恋愛表現として届いてきます。憧れの先輩のチンコ、浮気した元カレのチンコ、好きな人の最後のチンコ…それぞれのチンコと女の子を通して、読者は「チンコってなんだ?」ということと向き合っていくのです。
全8章に渡って、恋する女子目線で好きな男子とチンコへの想いを語るストーリーですが、男子なら全ての章で共感するポイントがあるのもポイント。
「安心感のためにだよ!!」
「男にとってチンコがない状態がどんなに不安かわかるか?」
「あれはセックスかオナニーにだけ使うものじゃない。オシッコするだけのものでもない…」
「チンコは“安心のエネルギー体”なんだ」
(第3章「埋まる アンシンカン」より引用)
こんなチンコ考が全編に散りばめられています。私が本作で一番好きなお話が、クラスの男子のチンコが股にくっついてしまった女子が数日間だけ男子を疑似体験する「あの時、捕まえたバッタのように」。
女の子は「月経」を 学校である程度教わるので 知識がある分恐怖が多少 やわらぐけど
男の子は「射精」を 学校では教わらないので
男の子にとって 初めての射精がどれほど 未知で恐怖で孤独なものなのかというのを 私は思い知った
(第5章「あの時、捕まえたバッタのように(後編)」より引用)
初めて男子の生理現象を経験した女子・相沢さんによるモノローグ。何を経験したかはこの一文で一目瞭然ですが、絵とあわせて見るときっと印象が変わるはず。とても衝撃的な描写で、男子の本能に根付いた深い孤独がうまく描かれていて胸に響きます。チンコと共生する数日間を終え、少しだけ男子の気持ちを知った相沢さんは、ある生理現象について以下のように語ります。
加藤くんは 宮本くんを見ると 少し勃起するようになってしまったのだ…
でも申し訳ないけれど それは言葉より確かな私の気持ちなのだ
(第5章「あの時、捕まえたバッタのように(後編)」より引用)
勃起をここまで感情的に描くなんて目頭が熱くなるばかり。あまりに真実な表現で、過ぎ去った青春時代に思いを馳せてしまいます。大人になると、感情をストレートに表現する場が減っていくし、どんな場面でも言葉で伝えることがある意味大人の証明になります。それでも言葉に出来ない想いを抱いた時には、本作をぜひ読んでみてほしいです。
【おすすめしたい人】
すべての男子/恋する女子(特に10代)/片思いをしている人/SF(すこし不思議)な作品が好きな人/チンコについて知りたい人