【エモいマンガ大賞 2019/頑張る若者へ編】
「魔法が使えなくても」(紀伊カンナ・著/祥伝社・刊/既刊1巻のみ)
夢を叶えて真っ当に働くことが「白」である時代は過ぎて、なんとなくでも前向きに頑張れる「ねずみ色」な今を描く
実はこの短編集が初めて読んだ紀伊カンナ先生作品だったのですが、もう才能しか感じられない短編集でした。女性コミック誌「フィール・ヤング」やBL誌「on BLUE」での活動が中心ではありますが、かなり絵の線がスッキリと太いため男性でも読みやすいこと間違いなしです。個人的に「この書影は絶対面白い!」と直感した作品は、かなり高確率で好みをひくタチなのですが、その直感が2018年で最も働いた作品でもあります。
マンガで作風の例を出すなら「敷居の住人」「放浪息子」の志村貴子先生を思い浮かべて頂ければ。ジェンダーについてのテーマも描いているので、たぶんご本人も影響受けているんじゃないかと思います。お話の内容は仕事、恋愛、人間関係、本当の自分とのチューニングがうまくいかない男女の群像劇。悶々としがちなテーマですが、全編を通してお話はコミカルかつ爽快感にあふれています。
夢追い人、働くことへの問いというテーマや、バンドマンが出てくることから、浅野いにお「ソラニン」を思い浮かべました。両者を比較すると、それらのテーマへのアプローチが変化していることに気付かされます。作中ではさまざまなキャラクターが、恋愛、性差、働くことなどを考えながらも、決して切羽詰まらずに日常を過ごしていますが、どのお話でも「答えは白か黒じゃない」と優しく教えてくれます。ソラニンのようにひたむきに夢、仕事、生活と向き合う作品から、今はそういったトーンに変わったんだなーと。
キャラクターが地に足つけながらもふらふらゆるりと悩んでいる姿に、現代らしいリアルを感じてめちゃくちゃエモい気持ちになってしまったのです。そして、何より全員素晴らしくキャラが魅力的なのでね! シャレた女の子が読みたければ紀伊カンナ、親近感のあるイケメンが読みたければ紀伊カンナ。最強ですよ。私はキキちゃんというコンセプトカフェ(いわゆるメイドカフェ)で働く女の子が大好きです。
【おすすめしたい人】
仕事に悩んでいる、転職を考えている人/夢と現実のギャップに悩んでいる人/やりたいことが見つからない人