コンビニのショーケースでもドーナツが買えるようになって、はや2年。そのせいか、たまにドーナツを思いきり食べたくなるとき、ありませんか? 実はいきなり日本以外の国の話になってしまうのですが、ポーランドだと好きなだけドーナツが食べられる最高の日があるのです!
そもそもポーランドには、日本人が「え?」と思わず耳や目を疑ってしまうようなユニークな行事がいくつもあります。今回ご紹介するのはそんな変わった行事のひとつ、毎年1月下旬から3月上旬のある木曜日にやってくるポンチュキが食べ放題の日。このポンチュキはポーランド風ドーナツとも言われ、ドーナツ好きや菓子パン好きにはたまらない絶品スイーツなのです。
日本人がドーナツと聞いてまず思い浮かべるのは、ミスタードーナツですよね。おそらく、食べ放題どころか2016年に100円セールが終了した件で未だに落ち込んでいる方もいるのでは?
しかし、この年に一度のチャンスを狙ってどうせならポーランドでドーナツをたらふく食べるというのも斬新で良いアイディア。この日を見逃しても、ポンチュキは日常的に1個60円程度で売っているのでご安心ください。
ポンチュキは揚げ菓子なのに罪悪感なしで食べられるスイーツ
ポンチュキは真ん中に穴が空いていない、丸くて平たいタイプのドーナツです。中には具として伝統的にローズジャムが入っており、各家庭やお店によっては特製フルーツジャムをミックスしオリジナルの味に仕上げます。
作り方は一見ふつうのドーナツと同じ。薄力粉や牛乳、黄身などを混ぜた生地を寝かせ、水分を飛ばしたジャムを中に入れて包み、油で揚げていくというものですが、この手順の中で明らかにポーランドらしい一手間があります。
おいしさの秘密はなんとアルコール度数96%のスピリタス!
知る人ぞ知るピュアなアルコール、スピリタスはポーランド生まれです。度数が96%と非常に高いため消毒液のような扱いですが、ポーランド人の各家庭には必ずと言っていいほどスピリタスが常備してあります。
何に用いるのかとポーランド人に聞けば「オリジナルのウォッカを作るためさ」と自慢げに返されるでしょう。しかし、実はウォッカを作るという用途以外にもお菓子作りに大活躍、コスメとして利用する女性までいるのだから驚きです。
ポンチュキの生地作りでは、おおよそ40個分のポンチュキに対してスピリタスをおちょこ1杯分ほど入れます。もちろん薄めません。こうしてスピリタスを生地に混ぜることにより、揚げる時に油が生地の奥まで侵入しにくくなり、揚げ菓子なのにあっさりおいしく食べることができるのです。
ポーランド人が年に一度ポンチュキを大量に食べるのはなぜか
いくら甘いものが大好きなポーランド人でも、無意味に大量のポンチュキを食べません。大人や子どもが幸せそうにポンチュキを頬張っている姿からも楽しそうに見える行事ですが、実は国教であるキリスト教カトリックに関連した深い理由があるのです。
キリスト教では、復活祭(イースター)というイエス・キリストの復活を祝う最大の祭りが毎年春にやってきす。復活祭の日付は毎年異なり、春分後の最初の満月から数えて最初の日曜日と定められています。
そのため年によっては最大1か月のズレが生じ、具体的にいうと3月22日から4月25日の間となります。そして、カトリック教会ではこの復活祭の46日前から復活祭前日までの期間を四旬節と呼び、祈り・断食・慈善の3つを通して悔い改めを行うのです。
ポンチュキをお腹いっぱい食べる日は、四旬節の最初の日の前の木曜日となり、この日は「脂の木曜日」と呼ばれます。つまり、四旬節に入ると食事は控え目にしなければならないため、ポーランド人達はポンチュキを食べることによって食べ納めをしているというワケなのです。
現代では徹底的な節食をする家庭は減っていますが、それでも昔から続く文化としてカトリックではないポーランド人もポンチュキを食べるという国民的行事へと変化しました。ポーランドのフラッグキャリアであるポーランド航空でも脂の木曜日には機内でポンチュキを配っており、ワルシャワ空港では小さなポンチュキが誰でも食べられるようになっています。
脂の木曜日はパン屋さんやお菓子屋さんの前に行列ができる
ポンチュキを作る家庭も多いですが、油を大量に消費し片付けも面倒という点からパン屋さんやお菓子屋さんで大量のポンチュキを購入する人もいます。世界的にも食べ物で行列をつくるのは日本人くらいだといわれていますが、ポーランドでも脂の木曜日だけはお店の前に行列をつくるのです。
この日のポンチュキは破格の値段で売られることもあり、通常なら1個60円のところ半額の30円で売るお店もあります。ポンチュキの叩き売りといわんばかりに、テレビやラジオからは「◯◯◯スーパーでは12円!」と聞こえてくることも……。
こうしてつい調子に乗って大量に買ってしまうのですが、意外にも1人当たりの消費量は2.5個という統計が出ています。しかし、これは単純に人口で割った平均となるのでポンチュキを食べない乳幼児や大量に食べない高齢者を除き、また前後の日に食べられるポンチュキも数に入れると短期間で1人当たり10個以上は口にしているかもしれません。
ポンチュキは脂の木曜日だけに見られるレアスイーツではなく、コンビニやスーパーはもちろん、パン屋さんやお菓子屋さんで毎日見かけるポーランド名物です。各都市にはポンチュキ専門店もあり、そういったお店で食べるできたてのポンチュキはまた格別。この記事を読んでポンチュキを食べてみたくなったら、いつでもポーランドにお越しください。