グルメ
2018/10/16 17:00

「熟成鮨」と「熟成肉」の違いとは? 気鋭の新店「万」に神髄を聞いた!

アメリカンステーキ店の日本上陸や肉バルなどのブームによって、一定の知名度を得ている熟成肉。その一方で熟成鮨というジャンルがあることをご存知でしょうか。肉と同じく、素材が持つうまみを豊かにするために熟成させるのですが、鮨の専門店は熟成肉ほど増えていません。そんな昨今、新進気鋭の熟成鮨店がオープンすることを耳にし、取材に成功。熟成肉と熟成鮨との違いや、大ブームにならない理由、どのように魚を熟成させているのかなどを聞いてきました!

 

 

魚の処理を徹底し独自に編み出した4つの熟成法を駆使

訪れたお店は、9月17日にオープンした「熟成鮨 万」(よろず)。立ち上げたのは、白山洸(しらやまあきら)さん。今年の2月に銀座で開業し、瞬く間に予約が取りづらくなった話題の人気鮨店で二番手を務めていた方です。

↑中央に写っているのが「熟成鮨 万」の白山洸大将。6席のカウンターのほか、個室が2部屋用意されています

 

熟成肉と熟成鮨の違いは、考えてみるとたくさんあります。そもそも哺乳類と魚類で異なり、身体の構造や大きさからして千差万別。共通しているのは、しめた後の対処のスピードが重要であることくらいでしょう。つまり、臓器や血液をいかに手早く処理するかということです。そこでいうと、熟成肉の代表格である牛は陸地で育てるため比較的扱いやすいですが、海から捕獲したとたんに環境が一変する天然魚の場合はそうもいきません。

 

また、足が速い(傷みやすい)魚の場合は特にスピードが必要。そこで、神経締め(抜き)という技法で脳死のような状態にすることにより痛むのを防ぎ、ストレスをかけずに処理するのです。

↑おまかせの鮨はマグロからスタート。築地の超名門「やま幸」より仕入れた、青森・大間産マグロの赤身を9日間熟成でヅケにしたものを、福井産の地辛子とともに。その後脂がのった中トロ、大トロと続きます

 

熟成の方法も様々。牛には日本伝統の枯らし、アメリカ式のドライエイジング、真空パックを用いるウェットエイジングなどがあります。一方で鮨の場合、牛肉の枯らしやドライエイジングのように低温で乾燥させる手法は用いつつも、塩を使ったり酵素や発酵の働きを活用したりとネタによって使い分けるのだとか。

↑後半で供されたのは、なんと足が速い魚の代表格・サバ。江戸前のサバを11日熟成させたものとのことですが「処理さえしっかりしていれば、サバも熟成できますよ」と大将

 

これまでの仕事で、1000尾以上を熟成させてきた白山大将。長年の経験から、独自で編み出したのが「酵素熟成」「乾燥熟成」「塩基熟成」「発酵熟成」。これら4つの技法を駆使し、種類、サイズ、産地などで変わるネタの各ピークを見極め、それぞれの合格ラインを超えたもののみを選んで握るのです。

↑この日の最長は、16日間熟成させた淡路島産のマダイ。全体的に、熟成鮨はねっとりとしたネタの食感と妖艶なる甘みが印象的で、シャリとの一体感も絶妙です

 

話を聞くなかで、肉のように熟成鮨ブームが広まらない理由がわかりました。仕込みが難しいうえに手間がかかり、食べられない部分をトリミングしなければならないので高価になりがちという側面も。焼いて提供する熟成肉に比べ、鮨は扱いが繊細であることも挙げられるでしょう。

 

 

アデノシン三リン酸→イノシン酸が熟成鮨の神髄だ!

鮨職人であるとともに熟成士でもある大将は、長崎出身。大阪の高校を卒業後、学校の紹介により大阪鮨の店でキャリアをスタートしました。住み込みで働くなか2年ほど経ち、あるとき勉強のために訪れた一軒に深く感銘を受け、弟子入りを志願。同時に江戸前鮨の技術や魚を寝かせる技を知ることに。

 

「さばきたてと3日熟成のマダイとを食べ比べる機会があって、味の違いにビックリしたんです。そこからはもう、熟成鮨の世界に一直線。働きながらも自分で魚を買って、さばいて、寝かせてという研究を続けましたね。当初は腐らせてしまうこともありましたけど」(白山大将)

 

味をおいしくするには、食感をよくするには、香りを高めるには。独学でも少しずつ試行錯誤を重ね、8年後の2017年には大阪の熟成鮨店へ移り大将に。その技を発揮しながら名声も高めていきます。そして満を持して今年上京。

↑北海道産のボタン海老を7日間熟成で。身とシャリの間に、海老のホホ肉の味噌をあしらっています

 

↑北海道産のスジコは表面に塩を振り、11日間乾燥熟成させています。なお、握り方の特徴のひとつが、シャリを少なめにしてネタで包み込むようにすること

 

大将は科学的な側面からも、熟成のメカニズムを熟知しています。

 

「魚の熟成のカギとなるのが『アデノシン三リン酸』。ATPといわれるもので、これがうまみ成分のイノシン酸に変化することが熟成。ただ、やりすぎてイノシン酸がヒポキサンチンに変化すると腐敗になります。この見極めが重要ですね」(白山大将)

↑個人的に、特に驚いたネタがホッキ貝。苫小牧産を11日間熟成させたもので、あふれるうまみと、えも言われぬ豊かな弾力はかつて味わったことがないおいしさでした

 

また、シャリも酒も熟成鮨に合わせたものを厳選しています。たとえば米は長野・飯山産のコシヒカリを採用。うまみの濃いネタを引き立たせるため、砂糖は使わずに赤酢と少量の塩で仕上げています。そして酒は日本酒なら7~10種類、ワインは白赤各4種のほかシャンパンもラインナップ。ビールも用意されています。

↑かんぴょう巻き。日本酒は奈良の「花巴」木桶仕込 樽貯蔵 山廃純米酒をペアリング

 

「熟成鮨 万」は基本おまかせで、鮨(本稿のネタは一例)のほかに数皿の料理やお椀などが供され2万円~という設定。決して安くはありませんが、知られざる熟成鮨との出合いは至福の体験となるでしょう。食通の間では、予約が取りづらくなるのも時間の問題と噂される同店。いまがチャンスかもしれません!

 

【SHOP DATA】

熟成鮨 万(よろず)

住所:東京都渋谷区東4-6-5 ヴァビル3階

アクセス:東京メトロ「表参道駅」B1口徒歩12分

営業時間:18:00~24:30(22:00以降おこのみ可)

定休日:日