食中酒、という言葉を聞いたことがありますか? 読んで字の如く食中に飲むお酒のことですが、せっかくおいしいお酒でも料理によって、相性の合う合わないが左右されてしまうことが多いですよね。そこで、「日本料理 海木」の岡本篤志さん、白糸酒造の田中克典さんをお招きして、「最高の食中酒」をテーマに語ってもらいました。
インパクトの強さではなく、“中庸”であることがポイント
――飲食店から見た食中酒とは、どういうものなのでしょうか?
岡林「一概には言えませんが、傾向としては最初にふわっと華やかな香りがするお酒を頼まれて、徐々に落ち着いたお酒へ移行していくお客様が多いと思います。個人的に杯を重ねるお酒は七本鎗や旭菊といった燗あがりするお酒が多いですけど」
――田中さんは食中酒を意識して醸すことはあるんですか?
田中「何かのジャンルに当てはめてお酒を醸すことはないですね。自分が理想とするお酒を造っているだけで、食中酒としての善し悪しを判断されるのはお客様だと思っています」
岡林「確かにそうでしょうね。でも、これは事実として言えることなんですが、うちの店でも田中六五を扱っていて、おかわりするお客さまが圧倒的に多いお酒なんです。インパクトのあるお酒は、ほかにたくさんありますよ。でも、田中六五の凄いところは、揚げ物でも酢の物でも煮付けで燗にしても、しっかり料理に寄り添ってくれるんです。飲食店から言わせれば、非常に扱いやすい中庸の酒です」
田中「どういうお酒が造りたいですか? という質問には、いつもゼリーみたいなお酒と答えています。極端なこと言うと、飲み物の中で最も身体に馴染むのは水なんですね。しっかりボディもあって、水のようにスムーズに喉を通っていくお酒が飲んでいて気持ちいいお酒なのかなって思いますね。最近は低アルコールの流れもありますけど、いま言ったような起承転結のあるお酒が造れれば、アルコールが15度くらいあっても十分勝負していけるんじゃないかなと僕は思っています」