日本酒とシャンパン。「醸造酒」という意味では同一のジャンルですが、原料や製法などはまったく異なります。しかし、昨今人気の「スパークリング日本酒」には、“シャンパンの製法を導入して作った”という1本があるのを知っていますか? それは永井酒造の「MIZUBASHO PURE」(みずばしょう ぴゅあ)。構想から製品化まで約10年かかったという1本に込めた思いを、永井酒造の永井則吉さんに聞きました。
“日本人の営み”を1本に凝縮した、世界に受け入れられる酒を造りたい
――シャンパンの伝統製法である瓶内二次発酵で日本酒造りをはじめたのは、どんな思いからだったんですか?
「1998年にフランスのシャトー・クリネのオーナーがうちの蔵へ来る機会がありまして、彼のぶどう作りやワイン醸造に対する精神哲学に触れたとき、これが世界だと思ったんです。自分は米で酒を表現して、この人たちと勝負できないとダメだなって。まずはコース料理にあわせた日本酒をという観点から、スパークリング清酒の開発に取り組みました」
――構想から約10年で「MIZUBASHO PURE」が誕生するわけですが、一番苦労したところを教えてください。
「ガス圧をあげることと、透明なスパークリングにすることですね。にごり酒のスパークリングではなく、目指したのは透明の一筋泡。シャンパーニュと肩を並べられるお酒ですね。3年間で500回失敗して、もう自分たちの理論では限界だっていうところまでいきました。最後の最後、もう半ば諦めかけていた頃に、一度シャンパーニュに行ってみようと思ったんです。そのときは、これでわからなかったら断念しようという決意をしていました。でも、行ったらびっくりですよ。答えは当たり前すぎて本にも書いてないことだったんです」
――それは何だったんですか?
「気候、つまり瓶内二次発酵時の自然環境の温度だったんです。それがわかったあとも約200回のトライ&エラーを経てやっと完成し、製法特許も取得できました」
――まさに苦労に苦労を重ねた賜物ですね。さて、非常にグローバルな価値観を持つ永井さんにって、日本酒とはどういうものですか?
「日本酒は、単なる商品ではないと思っています。私の日本酒造りとは、日本の地方の自然と文化と歴史とそこに住まう人々の営みを凝縮させたものなんですね。そういうことが伝えられたら、日本酒はもっともっと受け入れられると思っています」