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2020/1/11 18:00

タピオカティーの元祖「春水堂」は、今何を考えているのだろうか?

先日、「タピオカ・ブーム」は終わるのか? 第3次ブームの第4形態にきた今、その大前提にある違和感という記事を書きました。その違和感のひとつは、2013年に台湾ティーのカフェとして上陸した「春水堂(チュンスイタン)」が、ここ2~3年のタピオカというパワートレンドのなかでタピオカ“専門店”だと認知されているのではないかということです。

 

一方で、ブームはピークを過ぎたともいわれるいま、この流れはどうなるのか。そして、一連の流れについて“中の人”はどう思っているのか。そもそも、どうやって黒い粒のタピオカをティーに入れるという発明が生まれたのか――そこで、くだんの「春水堂」に取材を申し込みました。すると、社長が応えてくれることに。数々のナゾを解き明かしたいと思います。

 

↑日本で「春水堂」を運営する、株式会社オアシスティーラウンジの代表取締役・木川瑞季さん。「春水堂 銀座店」にて

 

春水堂は、本来はお茶の店

まずは改めて「春水堂」の成り立ちから。誕生は1983年。台湾の台中四維街に1号店がオープンし、いまでは台湾で52店舗を展開しています。そして1987年にタピオカミルクティーを開発。国民的な人気を博すとともに海外へも広まり、“タピオカミルクティー発祥の店”として知られることに。では、どんなきっかけでタピオカミルクティーが生まれたのでしょうか。

 

「大前提として『春水堂』のコンセプトは、お茶の文化継承と味への追求。お茶の魅力とおいしさを、体験とともに伝えていきたいと思っています。そのために、様々なお茶のメニューや楽しみ方を考案してきました。そのひとつが、ミルクティーにタピオカを入れるアレンジです」(木川さん)

 

↑「春水堂」は高品質のお茶を提供するために「お茶マイスター認定制度」を導入。テストに合格してはじめて、ドリンクを作ることが許されるのです

 

「春水堂」の発明はタピオカミルクティーだけにあらず。たとえばアイスティー。かつての台湾では、お茶は温かい飲み物というのが常識で、お茶業界では冷やして飲むことはご法度だったそう。とはいえ暑い台湾ではアイスティーが画期的としてヒット。その後、アイスティーをより楽しむ方法として、甘くしたりレモンを入れたりという飲み方も定着しました。その流れで生まれたのが、スイーツ感覚でお茶を楽しむタピオカだったというわけです。

 

「粒の色や大きさにも理由があります。ミルクティーに映えるとしてブラックに、そしてお茶と一緒に飲んだときのおいしい弾力を追求したらあのサイズになりました。『春水堂』の粒は比較的に小さいほうですが、それはこれ以上大きくするとお茶のおいしさがタピオカのインパクトに負けてしまうからなんです。また当店にはコーヒーやジュースなど、お茶ではないドリンクはありません。ベースがお茶なので味わいにブレがないことも、タピオカの粒が大きくない理由です」(木川さん)

 

↑ホットの「タピオカミルクティー」500円

 

木川さんが、お茶のおいしさと同様に大切にしていることが体験です。そのために欠かせないのが心地よい空間。「春水堂」がイートインスペースを併設している理由はここにあり、これも新進気鋭のスタンド型タピオカ専門店との違いです。

 

↑スタッフの意識がサービスや空間をよりよくする、という考え方をもつ同店。2017年には、世界的デザイナーの丸山敬太さんが手掛けたユニフォームに一新。エレガントかつ動きやすい意匠はスタッフからも好評

 

「おいしいドリンクを届けるだけなら、テイクアウト専門でもいいんです。経営的に考えれば、本当はそのほうが家賃も人件費もコストカットできるでしょう。ただ私たちは心地よい空間もお届けすることで、喫茶店のように生活に根付く存在になりたいんです。また、台湾のローカルフードを提供することで、豊かな食文化そのものをプロモートしたいとも考えています」(木川さん)

 

↑現地の定番食「牛肉麺」(930円)をはじめとする台湾ヌードルのほか、点心類の料理やスイーツも提供しています

 

一方で、「春水堂」は2005年に現地でスタンド型のティーブランド「TP TEA(ティーピーティー)」をプロデュースしており、2018年からは日本でも展開しています。この出店理由は?

 

↑「TP TEA」の日本1号店は「新宿ニュウマン」のエキナカにオープン。スタイリッシュなデザインも特徴です

 

「大きなところでは、より間口を広げるために『TP TEA』を出店しています。たとえば、仕事の途中などで気軽に利用したい方、また男性のお客様などもターゲットですね。デザインがシンプルなのは、そういった理由もあります。イートインスペースやフードを用意している店舗もありますが、コンセプトは『春水堂』とは若干違いますね。ハイクオリティなお茶を提供する点は共通ですが、『春水堂』を利用するタイミングが少ない方にもお茶の文化を届けるのが『TP TEA』、という考えです」(木川さん)

台湾カフェの上陸ラッシュ

筆者が前回書いた記事では、2013年に「春水堂」(ファーストウェーブ)が上陸した2年後に、「ゴンチャ」(セカンドウェーブ)や、かき氷の大行列店「アイスモンスター」といった台湾の有名カフェが上陸していることに触れています。その後は様々な台湾発祥ティーブランドが出店していますが、当初はなぜそこまで多くなかったのでしょうか。

 

↑「ゴンチャ」の日本1号店は2015年9月、原宿表参道にオープン。同店も、タピオカはあくまでアレンジのひとつであり、高品質なお茶の味と多彩なカスタムがウリです

 

「それまで、台湾発祥の飲食店では小籠包の名店『鼎泰豊(ディンタイフォン)』ぐらいしか大規模展開できているお店はなかったと思います。また、台湾ティーのカフェとなると成功事例がありませんでした。そこに挑んだのが『春水堂』です。もともと『春水堂』は台湾のなかでも有名でしたが、実は海外進出していませんでした。初進出先が日本ということもあり、その他の台湾ティーカフェは注目しながら当店に対する世間の反応を見ていたんだと思います」(木川さん)

 

「春水堂」の成功を機に、我も続けと他店が上陸を決めたとします。ただ、いざ海外から上陸となると、物件を見つけて交渉したり日本向けのマーケティングや準備をしたりで1年近く、またはそれ以上の時間を要すでしょう。それがファーストウェーブのときに、「春水堂」以外の台湾ティーカフェが上陸せず、セカンドウェーブまでに2年がかかった理由だと考えられます。

 

そしてその後はご存知の通り、レストランからコンビニやスーパーまでタピオカ商品が並び、2019年は垣根を超えて大ヒットしました。一方では加熱しすぎたために「タピオカ・ブームは曲がり角」などとささやかれていますが、この現象について木川さんはどう思っているのでしょうか。

 

「ブーム自体は台湾ティーではなく、タピオカが中心だと思いますが、その発祥の店として『春水堂』を知っていただく機会が増えたことに、大変うれしく思っています。これからは興味をもっていただいた方々に、いっそうタピオカティーのおいしさはもちろん、お茶やアレンジの楽しさを伝えていきたいと思っています」(木川さん)

 

そのために、何か新しい試みは行っているのでしょうか。

 

「台湾ティーブランドがたくさんあるいまだからこそ、選ばれるお店にならなければいけません。大前提として、品質、サービス、心地よい空間づくりを大切にしたいと気を引き締めています。また『春水堂』は伝統文化を守るとともにチャレンジングなDNAが宿っていますから、常に斬新なサービスを提供することに挑戦しています。最近ですとモバイルオーダー&ペイ『スマタピ』の導入。話題の『Uber Eats』の導入も、同業のなかでは当店がかなり早かったと思います」(木川さん)

 

↑インストール不要で、スマホやパソコンから注文し、指定の時間に行けば待たずに店舗で受け取れるサービス。「春水堂」「TP TEA」で導入が進められています

「アレンジティー」「ヘルシー」「豆花」が注目株

最後に、今後のタピオカや台湾ティーをとりまく環境はどうなると予想しているのでしょうか。木川さんに聞きました。

 

「お茶はコーヒーと同じく1日に何杯も飲みますし、毎日でも飽きないものですよね。そこはスイーツや特定のフードとは違う点だと思っており、だからこそ生活の一部になれると信じて今日までやってきました。スイーツとしてのタピオカの側面は飽きられてしまうかもしれませんが、台湾ティーの魅力はお茶のおいしさであり、豊富なアレンジにもあります。そのひとつとして、タピオカ以外のトッピングにも注目が集まるのではないでしょうか」(木川さん)

 

タピオカ以外のトッピング。それはどんなアレンジでしょうか。たとえば、濃厚なチーズフォームがのったチーズティーがポストタピオカという声はよく聞きます。

 

↑チーズティーを売りにしている台湾ティーの代表格が「happylemon(ハッピーレモン)」。写真の吉祥寺店は、もともとその日本版として2015年にオープンした「彩茶房」が先祖返りする形で「happylemon」として2019年11月にリニューアル

 

「特に、濃厚なテイストが好きな方にチーズティーは好まれるでしょう。一方で、これからはヘルシーさを台湾ティーに求める声も増えると思います。その点では、フルーツを活用したストレートティーとか。またミルクティーの代替として、豆乳ティーやスーパーフードを使ったアレンジティーも注目されると思います」(木川さん)

 

↑90種類もの豊富な栄養素を持ち、次世代スーパーフードとも呼ばれる「モリンガ」。「春水堂」でも限定フレーバーとして発売していました

 

ヘルシーという点では、木川さんは「春水堂」が日本で先駆けたスイーツも2020年のトレンド候補だといいます。それはいったい?

 

「豆花(トウファ)です。大豆を原料とした、絹ごし豆腐のような食べ物を甘い味付けで楽しむのが台湾式ですね。2015年に日本で商品化したのですが、これも『春水堂』が初だと思います。『タピオカフルーツ豆花』などはあんみつをヒントに日本人向けにアレンジを加えて開発したので、伝統的な豆花に比べるとよりデザート的で華やかなんですけどね」(木川さん)

 

↑「フルーツ豆花」650円に+50円でピーナッツをトッピング

 

雑誌「東京ウォーカー」の特集「2020年 ブームになる店」の筆頭に挙げられるなど、事実として注目が高まっている豆花。ほかにも日本で人気の台湾グルメにはルーローハン、豆漿(トウジャン。台湾式の豆乳のことで、朝食として話題沸騰中)、鶏排(ジーパイ。台湾式のフライドチキン)など多彩にあり、お茶はもちろん台湾グルメにはいくつものヒットの芽が眠っているといえるでしょう。オリンピックイヤーということで、国際色が俄然高まる2020年の日本。フードトレンドは、いっそう台湾に注目です!

 

【SHOP DATA】

春水堂 銀座店

住所:東京都中央区銀座5-8-1 GINZA PLACE B1

アクセス:東京メトロ銀座線「銀座駅」直結

営業時間:11:00~21:00(フードL.O.20:30、ドリンクL.O.20:45)
定休日:施設に準ずる

 

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