東京・下落合といえば、静かな住宅街で知られる町ですが、この一角に世界初のクラフトコーラを製造する小さなコーラ専門メーカーがあります。その名は「伊良(いよし)コーラ」。代表の“コーラ小林”こと小林隆英さんは、大学では農学を学び、在学中には世界を巡って各地のコーラを飲み歩いた経験の持ち主。就職した大手広告代理店時代も、コーラへの思いが忘れられず、独自ブレンドによる試行錯誤を繰り返し、ついにはこの伊良コーラブランドの立ち上げに至ったそうです。
今回は、改装されたばかりの新工房で、小林さんのコーラへの思い、ブランド立ち上げまでの話を聞きました。
2年半試行錯誤が続いたコーラ作り
ーー下落合の神田川沿いにある伊良コーラの工房ですが、もともとはおじいさまの漢方の工房だったそうですね。
小林隆英さん(以下、小林) はい、もともとこの場所は、祖父が経営していた伊良葯工(いよしやっこう)という和漢方の工房でした。漢方というのは、中国から入ってきたものですけど、祖父は日本人としての解釈で運営していたので和漢方を名乗っていました。
それとは別に、私が大学時代にコーラマニアとなり、世界中のコーラを飲み歩いていた時期がありました。流通上のメインとなるのはコカ・コーラ、ペプシ・コーラですが、各国でも味が違います。あと、ヨーロッパなどでは、コカ・コーラ、ペプシ・コーラ以外にも、各地にこだわりのメーカーがあります。
最初は、自分でコーラブランドを立ち上げようとは全く思っていなかったです。しかし様々なコーラに魅せられて、気付けば自分でコーラ作りをするようになりました。約2年半繰り返し、ずっと研究を重ねました。
ーーおじいさまの和漢方のバックボーンは活かされましたか?
小林 そうですね。最初は祖父のことは意識せず、たまたまネットサーフィンしていて見つけたコーラのレシピをもとに作っていたのですが、思うような味にならない。でも、そこで祖父の漢方の調合の方法を取り入れたりしたところ、納得できる味ができました。
ーーでも、2年半もの間、試行錯誤を繰り返すとなると、かなり根性が要りそうですね。
小林 全部手探りでしたし、ゼロイチで何かを生み出すときは、やはり楽ではないです。
でも、こういう実験を繰り返すことは、すでに大学の農学部時代に経験していました。まず仮説を立てて、検証し、設計をしていくようなことを繰り返しする研究室にいましたので、そういった経験もコーラ作りにはとても役に立ちましたね。
ーー使われているのは12種類のスパイスと柑橘類だそうですが、これは生薬も含まれるのでしょうか。
小林 生薬も何種類かは使っています。ただ、スパイスと生薬の境目って実はないんですね。例えば生姜、クローブ、ナツメグ、シナモンといったスパイスも生薬として使われることがあります。ただ、伊良コーラでは、いずれも機能的な飲み物にするために使っています。
コーラのシロップを、強炭酸で割って飲む
ーー伊良コーラは「世界初のクラフトコーラ」と言われていますが、この「クラフトコーラ」の定義を教えてください。
小林 定義はないのですが、小規模の工房で、職人がこだわって作るコーラを「クラフトコーラ」という風に考えています。
ーーただ、これを広めるにあたっても、だいぶご苦労があったのではないかと思います。
小林 当初は、青山のファーマーズマーケットに毎週出店し、多くの方に飲んでいただくことから始めました。実際に飲まれた方からは、「コクがあって、コーラだけど、コーラじゃないような……」といった感想が多かったですね。
ーー伊良コーラの特徴は、コーラのシロップをベースに、飲む前に強炭酸水で割る……というものです。これも珍しいですね。
小林 いわゆるソーダストリーム用のシロップ、業務用のコーラシロップ、かき氷用のシロップのような商品はあります。ただ、たぶん世界中で探しても「強炭酸水で割るクラフトコーラシロップ」というものは、商品化されていなかったと思います。
実際に小林さんに伊良コーラを入れてもらいました!
コーラだけでない、シロップの使い方
ーー飲ませていただいた感じだと、スッキリしているのにコクがあって、実に美味しいですね。
小林 ありがとうございます。強炭酸で割るだけでなく、お酒と割ったり、ホットミルクと混ぜたり、お湯割りだけでもとても美味しいですよ。あと、コーラフォンデュというか、このコーラシロップをバナナやお餅に塗って食べるのも良いと思います。
ーー味は、2年半前と基本的には変わらないですか。
小林 基本的に大きくは変えていないです。ただ事業化して、その当時から日々進化させていますので、味は日々変わっていっています。また、「ジャパン・エディション」というシロップもあり、これは“ゆず”、“山椒”、日本ミツバチの“蜂蜜”など、日本固有のボタニカルを配合したものです。そういったフレーバーもありますので、いろいろ試飲していただければと思っています。
世界を目指し、日本の魅力を広めたい!
ーーこの伊良コーラの工房は2月に改装されたばかりのようですが、改装には何か理由があったのでしょうか。
小林 まず製造能力を上げること。さらに、実際にコーラを作っているところを、お客さまに見て欲しいというか、顔の見えるモノづくりをしたかったので、改めて改装しました。
ちょうど工房がある目の前の小道は、春は桜が満開になりますので、コーラを買ってそのまま散歩されても良いのではないかと思っています。
ーーこれからの将来にかけてはどのようなことを考えていらっしゃいますか?
小林 近いビジョンですと、シロップだけでなく炭酸を充填した瓶を出したり、食べ物屋さんとコラボして、コーラシロップを使った料理の展開などを考えています。
そして将来的には、やはり「コカ・コーラ」、「ペプシ・コーラ」、「伊良コーラ」と言われるようなブランドにしていきたいと考えています。ですので、日本だけでなく、世界に店を出したり、商品を販売していきたいと思っています。その過程によって、日本の魅力を世界に広めたいですね。
伊良コーラのモチーフはカワセミです。カワセミは水中に飛び込んで魚を捕らえる鳥ですが、言わば、空を飛ぶ鳥がアウェーな環境の水中に飛び込む様子が、伊良コーラの挑戦になぞらえられたのかもしれません。世界初のクラフトコーラ、一度試飲されてみてはいかがでしょうか!?
伊良コーラ総本店下落合
住所:東京都新宿区高田馬場3-44-2
営業日:金・土・日
営業時間:13:00~17:00(夏季(4月-10月)は13:00~18:00)
撮影/我妻慶一
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