2019年に一世を風靡したタピオカ。筆者は年末に「「タピオカ・ブーム」は終わるのか? 第3次ブームの第4形態にきた今、その大前提にある違和感」を書き、その動向を追っていくつもりでした。しかし2020年はコロナ禍によって、トレンドの発信地である街のティーカフェやティースタンドに攻める余裕がなくなっている状態です。
ある意味、まったく予想をしなかった形でタピオカ・ブームは沈静化しました。しかし一方で、スシローが8月に「シェアティー」を初上陸させるなど、台湾ティーには新たなムーブメントも見られます。そしてトレンドの火付け役である「春水堂」(チュンスイタン)と「ゴンチャ」も前進を止めていません。そこで今回は業界ツートップの各社長にインタビューし、最前線を明らかにしたいと思います。
「春水堂」はティーカクテルと乳酸菌
最初にうかがったのは、日本で「春水堂」を運営する株式会社オアシスティーラウンジの木川瑞季代表。「春水堂」はタピオカミルクティー発祥の店として有名で、6月に渋谷マークシティ店、7月に京都木屋町店とそれぞれ新規オープンさせました。ともに同社初の試みが盛り込まれていて、その狙いを知るべく渋谷マークシティ店へ。木川さんに話を聞きました。
「『春水堂』はお茶のおいしさを伝えるとともに、お茶の可能性を広げていくことを目指しているブランドです。そのためのアレンジティーであり、そこからタピオカトッピングやタピオカミルクティーが生まれました。特に昨年はブームということで多くの方に体験いただきましたが、お茶の可能性は尽きません。そこで渋谷から新たに始めたチャレンジが、お酒と小皿料理です」(木川さん)
台湾では、イギリスのアフターヌーンティーや日本の喫茶店のように、軽食とともにお茶を楽しむ文化が根付いており、現地の「春水堂」でも小皿料理が充実しています。そのスタイルを、日本上陸7年目にして初導入したのが渋谷マークシティ店。
「『お茶菓子』があるように、日本でお茶のペアリングといえばスイーツですよね。でも台湾ではお茶を小皿料理とともに楽しむんです。点心を味わう飲茶に近い感覚ですね。その一方、台湾では小皿料理をつまみながらお酒を楽しむ文化は日本ほどではなく、つまり日本のほうがお酒の食文化が豊かと言えるかもしれません。そこで、日本人がお茶と小皿料理をより楽しむスタイルとして、お酒のアレンジティー『ティーカクテル』を開発しました。この試みは日本初です。『春水堂』の特徴のひとつが食事も楽しめるイートイン空間ですが、より広いスペースのマークシティ店だからこそ、この業態を実現できました」(木川さん)
新たなアレンジティーはお酒とのことですが、ノンアルコールドリンクでもこれまでにない商品を開発したと木川さん。それを今秋新発売するのが、「春水堂」のグループブランド「TP TEA」(ティーピーティー)です。
「『TP TEA』も『春水堂』と理念は共通していますが、スタイルが少々違います。例えば“黄金比率のティーラテ”を名物に、種類豊富な70以上のアレンジティーを揃えていること。より男性にもご利用いただきやすいスタイリッシュな世界観であることなどですね。設計がシンプルかつコンパクトなティースタンドなので出店しやすく、店舗の数も台湾では『春水堂』の5倍ほど多く、約250店舗あります」(木川さん)
日本の「TP TEA」は現在10店舗(2020年8月時点)ですが、今後台湾のように拡大していくかもしれないと木川さんは言います。そんな同店の画期的な新作が“腸活ティー”。特徴を聞くと、ポイントは乳酸菌×お茶カテキンとのこと。
「コロナ禍によって、免疫力など健康意識がより高まっていると思います。そこで注目したのが乳酸菌とお茶カテキン。ふわふわのヨーグルトフォームと爽やかなジャスミンティーを合わせ、おいしく手軽に腸活できるお茶を開発しました。タピオカよりヘルシーに、粒の食感を楽しめるアロエトッピングもオススメですよ」(木川さん)
「ゴンチャ」はコーヒー、フルーツビネガー、フード
次は2015年に日本上陸し、現在全国に75店舗(2020年8月19日時点)を展開する「ゴンチャ」。記者発表会に参加し、今後の戦略をうかがいました。日本法人の代表は、かつて日本マクドナルドなどの名だたる大企業でトップを務めていた原田泳幸さんです。
「ゴンチャ」の漢字表記は貢茶であり、そのDNAはお茶です。原田さん自身「当社の一丁目一番地はお茶であり、タピオカミルクティーです」と前置きしながらも、新メニューの開発手法は大胆。今年の6月にはコーヒーを商品化し、7月には韓国で生まれた100%果実発酵の飲むお酢「美酢」(ミチョ)とのコラボレーションで「フルーツビネガー」という新たなドリンクを生み出しました。
フレーバーは、甘酸っぱく華やかな味わいの「ざくろ」、柑橘の爽やかな酸味を楽しめる「カラマンシー」、トロピカルな味わいを楽しめる「パイナップル」の3種類をラインナップしています。味わってみると、フルーツ由来だからか酸っぱさに角がなくて飲みやすいテイスト。
個人的に斬新さを感じたのはミルクで、酸味と相まった味わいはまるでヨーグルトのようなやさしく爽やかなおいしさ。これら、お茶以外のメニューを開発した狙いを発表会後に原田さんから直接うかがうと、そこにはブランドイメージを変えたいという狙いがあると言います。
「『ゴンチャ』といえばタピオカミルクティーや若い女性のお店という、ニッチなブランドイメ―ジが定着しすぎていると思います。また、行列はありがたいことなのですが、一方で長時間待つという側面があります。私はアジアンカフェにはもっと大きなニーズがあると確信しており、より多くの方に来店いただくにはこれら課題をクリアしなければなりません。そこで、メニューやサービスの改善に取り組みました」(原田さん)
対策として打ったのが、お茶以外のメニューを導入することで幅広い層にアプローチする手法。一方、茶葉、量、甘さ、トッピングなどで2000種以上の多彩なアレンジができたカスタマイズのウリを見直し、絞り込むことでサービスレベルや提供スピードの向上をはかったとのこと。
「いままでのお客様を大切にしながら、20代以上の方や男性の方にも利用いただけるブランドに成長させていきたいと思っています。コーヒーも当初は立川限定で実験的にスタートしましたが、十分なニーズがあることがわかりました。これから一気に全国へ広げていきます」(原田さん)
また、フランチャイズを積極展開し、店舗数を拡大しているのも「ゴンチャ」の特徴です。そのうえで今後は居抜き物件や既存事業のキッチンを活用した初期投資の低い「ゴンチャ デリバリーキッチン」という宅配特化型のフランチャイズ店舗を拡充し、さらに顧客接点を増やしていくと原田さん。
「数年以内には最低400店舗以上に増やしていきたいですね。あとは、秋以降になると思いますがフードメニューも開発しています。とはいえ繰り返しますが『ゴンチャ』のコアメニューはタピオカミルクティーですし、4種の茶葉を基本としたティーメニューはなくなりません。核となるブランドは守りながらも攻めていきますので、ご注目ください」(原田さん)
実はスタバもティー業態に注目している
タピオカ・ブームが落ち着いたうえ、外食業界全体がウィズ/アフターコロナの時代を迎えたいま、ティーカフェは淘汰のフェーズを迎えたといえるでしょう。しかしそのなかでも「春水堂」「TP TEA」「ゴンチャ」のように次の手を打つブランドは数多く存在し、さらにお茶のカフェ業態に勝機を見出す有名店もあります。例えば、あのスターバックスもそのひとつ。
ドリンクメニューとして個人的に興味深いのは、「春水堂」はヨーグルトによる乳酸菌。「ゴンチャ」も果実酢とミルクでヨーグルトに近いフレーバーを開発した点です。「春水堂」の木川社長の話のなかで“健康”というキーワードが挙がりましたが、2020年下半期のティーカフェの最新トレンドは、健康フレーバーだといえるのではないでしょうか。
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