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2020/9/29 19:00

「初年度大コケ」から看板商品へ! 「熱烈な社員ファン」が導いたタカラ「焼酎ハイボール」の大逆転

在宅勤務のあとのお楽しみといえば、晩酌タイム。でも、「コロナ太り」が気になるので、お酒は「糖質ゼロ」にこだわりたいですよね。そんな「糖質ゼロ」のお酒で絶大な人気を誇るのは、2021年で誕生15周年を迎えるタカラ「焼酎ハイボール」。缶チューハイのなかでも売上はトップクラスで、2017年には1000万ケースを突破し、2019年は1300万ケースを突破するなど、販売数は右肩上がりとなっています。そのキラキラ輝く印象的なパッケージを、コンビニやスーパーで目にした方も多いのではないでしょうか。

↑凹凸加工を施し、キラキラ輝く缶が印象的なタカラ「焼酎ハイボール」

 

当初は売れなかった商品が、大ヒット商品に育った経緯とは?

ところがこのタカラ「焼酎ハイボール」、開発当時は「こんなニッチなものが売れるのか?」「こんな味で売れるのか?」と社内でも不安視する声が多かったそう。そんな声を押し切って発売されたのが2006年のこと。「でも、ダメだったんですよ、初年度は。売れなかったんです」と、デビュー当時から同商品のマーケティングなどに携わっていた、塩野憲司さんは語ります。デビューでつまずいた商品は、そのまま忘れ去られて販売終了……ということも多いはず。それがなぜ、同社を代表するヒット商品に育ったのでしょうか? 塩野さんのインタビューを通して、波乱万丈のサクセスストーリーを追っていきましょう!

↑塩野憲司さん。現在は宝酒造の商品第一部の副部長、兼ソフトアルコール課長を務め、缶チューハイや焼酎を担当しています

 

東京の大衆酒場でチューハイが「一杯目」だった事実に衝撃を受ける

タカラ「焼酎ハイボール」の開発が動き出す契機は、約20年前のこと。のちのキーパーソンとなる人物が、塩野さんの上司として宝酒造の拠点の京都に転勤してきたのが始まりでした。

 

「その上司は東京出身で、チューハイのルーツを探るべく、東京下町の大衆酒場巡りをライフワークとしていました。その情熱は筋金入りで、オリジナルのノートに400軒以上の大衆酒場の情報を書き込んでいたほど。この上司のライフワークに部下のメンバーも興味を持ち、東京出張の際、大衆酒場の名店を巡るようになりました」(塩野さん)

 

メンバーが訪れた東京の大衆酒場では、想像以上に興味深い光景が広がっていたそう。特に驚いたのは、ビールサーバーが置かれたお店がほとんどなかったことでした。

 

「お客さんが、誰もビールを飲まないんです。じゃあ皆さんが何を飲むかというと、焼酎ベースのハイボールだったわけです。しかも、『とりあえずビール』ではなく、一杯目から焼酎ハイボールを飲んでいた。いまでこそ珍しくはないですが、当時は衝撃的でした」(塩野さん)

 

テスト的にビン入りの商品の開発をスタート

やがて、「この焼酎ハイボールを商品化しよう」との意見が出るのは自然の流れでした。しかし、社内には、「東京の一部だけで飲まれているニッチなものが、全国的に受け入れられるはずはない」という声も多かったそう。ただ、塩野さんをはじめ、チューハイがビールに取って代わる光景を目の当たりにした部下たちが粘りを見せ、なんとかテスト的にビン入りタイプの焼酎ハイボールを開発したといいます。

 

「そのとき、あるコンビニさんが面白がってくれて、2003年にコンビニで商品の販売が始まりました。王冠仕様の商品であったため、栓抜きがない家庭もあるだろう、ということで1本に1個、栓抜き付きで販売。栓抜きが面白がられたこともあり(笑)、この味わいに一定の手応えを感じることができました」(塩野さん)

↑ビン入りタイプの焼酎ハイボール「宝チューハイ壜詰」。フレーバーは<レモン><クラシック><グレープフルーツ>の3つ

 

缶飲料の味作りでは「謎のエキス」の再現に苦労した

この事例をきっかけに、全国向けの商品として本格的に開発されたのが、現在に続く缶入りのタカラ「焼酎ハイボール」。従来のビン入りの味わいを参考にしながらも、開発の際は、その味作りに苦労したといいます。

 

「そもそも焼酎ハイボールの缶飲料に前例がないですから。フレーバーごとに、大衆酒場の名店の味をインスパイアして作りました。特に大変だったのは『ドライ』。これは、焼酎と炭酸水に加える通称『謎のエキス』と呼ばれる液体がカギなのですが、『謎』というだけあって門外不出かつレシピは不明。お店によっても味はバラバラです。開発メンバーは数多くの店舗をはしごして味の方向性を話し合い、『謎のエキス』を再現すべく、試行錯誤を繰り返しました。ほかのフレーバーも同様です。たとえばレモンは、いわゆるレモンサワーと違い、レモンの風味はうっすら付いているのが特徴。その絶妙なさじ加減が難しかったですね。ただ、最後にたどり着いた味は、やはり『宝焼酎』を使用して焼酎ハイボールを作っているお店の味でした。どのフレーバーも開発には苦労しています」(塩野さん)

↑2006年の発売当時から続く4種類のフレーバー。左からグレープフルーツ、レモン、ドライ、シークヮーサー(缶のデザインは現行のもの)

 

テレビCMを打って大々的に発売されるも、鳴かず飛ばずの結果に

こうして2006年の3月、数々の困難を経て世に出たタカラ「焼酎ハイボール」。同年のメイン商品として売り出され、テレビCMを打ったにもかかわらず、初年度の売上は「鳴かず飛ばず」という状況でした。その理由について塩野さんは、「お酒自体が苦手な人も含め、幅広いチューハイユーザーに向けて広くコミュニケーションしてしまったから」と分析します。

 

「弊社は焼酎の蒸留機の性能も、その操作技術も世界トップクラスと誇れるレベル。弊社の焼酎には、極限までピュアに仕上げたものはもちろん、原料や蒸留方法を変え、さらに樽貯蔵で寝かせて様々にコクを与えたものもあるのが特徴。こうして作った約85種類の樽貯蔵熟成酒を、商品ごとに最適なバランスにチューニングするのが弊社のこだわりです。ここに『焼酎屋』としての誇りがあるわけですが、お酒が好きな方にこそ、その味の違いをわかっていただけるんです」(塩野さん)

↑宝酒造の焼酎を製造する黒壁蔵(宮崎県高鍋町)には、たくさんの樽貯蔵熟成酒が樽で熟成されています

 

味に惚れこんだ社員たちの地道な活動で、少しずつ売れ始める

こうしてタカラ「焼酎ハイボール」は低空飛行のまま1年が経ち、翌年のメイン商品が発売される時期がやってきました。しかし、タカラ「焼酎ハイボール」の販売が打ち切られることはなく、逆に少しずつ売れるようになってきたといいます。

「実は、社内にはタカラ『焼酎ハイボール』の熱烈なファンが多かった。この味に惚れこんだ社員たちが、『汗水たらして、自分たちが足で売ろう!』と独自に動き始めたんです。やがて、この味になじみがある下町を中心に、ポコポコと売れる店が出てきました。さらに、好きな奴らが集まって、『焼酎ハイボール倶楽部』というものを作り、全国から成功事例を共有して営業に活用したところ、異常に売れる店が出てきました。こうして芽が出てきたころ、『もう1回、メイン商品として売り出そう!』となったんです。この事実は、自分たちが『焼酎屋』であることを再確認し、『焼酎の魅力を伝える』という原点に立ち返る意味でも、大きな出来事だったと思います」(塩野さん)

↑「焼酎ハイボール倶楽部」第1回開催時の資料の表紙(当時の塩野さんが作成)

 

タカラ「焼酎ハイボール」は、ヘビーユーザーに愛される味

こうしてタカラ「焼酎ハイボール」は2009年、「大衆酒場で愛される、あのうまさ」をキャッチフレーズに訴求して本格的にブレイク。2010年には300万ケースに迫る人気ブランドとなったのです。

 

「やっぱり、社員が好きな商品だと売れる、という実感があるんですよね。社員は自分が酒飲みだから、その気持ちがわかりますから。なかでもタカラ『焼酎ハイボール』は飲み慣れてくると、ほかでは物足りなくなるんです。実際、タカラ『焼酎ハイボール』は、ヘビーユーザーが支えている商品で、飲用経験率は実はそんなに高くはありません。通常のフルーティなチューハイは100人が1本ずつ買うイメージですが、タカラ『焼酎ハイボール』は大好きな10人が10本ごっそり買っていくイメージ。こうしたヘビーユーザーにご愛顧を頂いているのも、焼酎の味わい自体に力があるからでしょうね」(塩野さん)

 

なお、過去の年のメイン商品として売り出されたものが、再び別の年のメイン商品に返り咲く例は、当時は極めて珍しかったとのこと。現在の大ブレイクは、社員たちの「焼酎ハイボール愛」が呼び起こした奇跡だったのです。

↑「レモン」や「ドライ」などの定番以外にも、多数のフレーバーを用意しています。「『ゆず』や『強烈塩レモンサイダー割り』など、他のチューハイにはあまりないフレーバーから飲んで頂くのもオススメ」と塩野さん

 

もともと持っていた商品価値「糖質ゼロ・プリン体ゼロ・甘味料ゼロ」が追い風に

近年のヒットの背景には、味が受け入れられ始めたことに加え、健康面などで新たなイメージが加わった点もあるといいます。なお、健康面でのメリットは狙ったわけではなく、もともとタカラ「焼酎ハイボール」が持っていた商品価値のひとつとのこと。

 

「焼酎は蒸留酒ですから、ビールなどと違って糖質やプリン体がゼロ。しかも弊社の焼酎は、樽で寝かせてコクを出していますから、甘味料を使わなくても十分なボディ感を表現できます。というわけで、もともとタカラ『焼酎ハイボール』は糖質を抑えたお酒だったのですが、近年はよりわかりやすく『プリン体ゼロ』『糖質ゼロ』『甘味料ゼロ』と表記することにしました。もうひとつ、発売当時はウォッカがベースのチューハイならいいが、焼酎はダメ、という風潮がありましたが、今は逆。ここ3~4年ほどの間に『国産の焼酎が安心だよね』という空気が生まれてきて、その点も追い風になっていると思います」(塩野さん)

↑基本的なデザインは変わっていないものの、「糖質ゼロ」などの「ゼロ表記」が大きく打ち出されるパッケージになっています

 

家飲みの時間が増えたいま、大衆酒場の味をゆっくり楽しんでみては?

新型コロナウイルスによる生活の変化に対応する意味でも、タカラ「焼酎ハイボール」を手に取ってほしいと塩野さんは語ります。

 

「コロナ禍でリモートワークが増え、家にいる時間も長くなっています。運動不足による『コロナ太り』に対処するためにも、ぜひ糖質ゼロのタカラ『焼酎ハイボール』をご活用いただきたいですね。また、かつては時間のない方がストロング系のお酒で素早く酔って寝る、という生活パターンもあったと思いますが、家飲みの時間が増えたいま、ストロング系では強すぎるのかもしれません。そこで、アルコール分7%のタカラ『焼酎ハイボール』で、もう少しゆっくり家飲みを楽しんではいかがでしょう? もちろん、コロナが落ち着いたらお店でも飲みたいところですが、それまではこれを飲んで大衆酒場の雰囲気を味わってほしい、という思いもありますね」(塩野さん)

 

東京下町の大衆酒場の味を伝えるべく始まったタカラ「焼酎ハイボール」。その味に惚れこんだ社員と顧客に支えられて、今があります。そのストーリーに思いを馳せて、あなたも今宵はタカラ「焼酎ハイボール」で乾杯してみませんか? 特に、まだ試していない方はぜひ。まったくハマらないか、とんでもなくハマるかは、あなた次第です!

撮影/我妻慶一