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2022/2/4 18:00

「ラーメン狂走曲」は全グルメ通必読の歴史的文献だ!フードアナリストが理由を明かす

2021年12月27日に発売された「ラーメン狂走曲」は、サニーデイ・サービスのベーシストであり、ラーメン好きとして知られる田中 貴さんによるラーメン本。その編集を担当したひとりがワタクシ、フードアナリストの中山です。

 

「ラーメン狂走曲」とは、モノ・トレンド情報誌「GetNavi」における田中さんの連載名で、第1回が2013年の4月号。記念すべきその初回当時もよく覚えています。しかしながらこうして書籍になると、非常に感慨深いものが。おかげさまで様々なメディアからも本書を紹介していただいていますが、ここではいちフードアナリストとして、また編集者として「ラーメン狂走曲」の独自性やスゴさなどを語らせていただきます!

 

↑「ラーメン狂走曲」1760円。人の顔が見えて、音が聴こえる――。そんなウマくて面白いラーメンの名店が150以上

 

 

著者・田中 貴の評価軸が間違いない理由

まずは著者の田中 貴さんについて。日本を代表するロックバンドのベーシストという、バリバリのミュージシャンであるとともにラーメンに関する造詣もハンパなく、音楽とラーメンともに、その確かな知見は本書を読めばよくわかると思います。

 

↑田中 貴さん。CSフジ「ラーメンWalkerTV2」メインMCのほか、テレビ・ラジオ出演、ラーメン関連のコラム執筆も多数(撮影/我妻慶一)

 

ちなみに、僕が改めて「田中さんスゴい!」と思ったエピソードをひとつ。世界で初めてラーメンでミシュランガイドの星付き店となったのは「Japanese Soba Noodles 蔦」ですが、それは「ミシュランガイド東京2016」において。同書の発売は2015年暮れのことです。

 

他方、田中さんは「Japanese Soba Noodles 蔦」が世界一の店であることを以前から確信していました。そのことは、2015年3月発売の前著書「サニーデイ・サービス 田中 貴 プロデュース ラーメン本 Ra:」で具体的な理由とともに書きつづっています。

 

↑「サニーデイ・サービス 田中 貴 プロデュース ラーメン本 Ra:」。付録CDでしか聴けなかった楽曲「きみとラーメン」と矢野顕子のカバー「ラーメンたべたい」が、このたび配信&7インチ盤リリース決定!

 

↑Ra:より。「個人的に好きということではなく、客観的に見て日本一のラーメン店。日本一とは自動的に世界一ということでもある。」との一文

 

料理の味や店の善し悪しは主観的なものであり、ミシュランガイドの星も絶対的な評価ではありません。ただ、自己分析で導き出した世界一の理由を明言することがまずスゴいと僕は思いましたし、あらゆる美食に精通する世界的なグルメ誌の見解と一致していたことは、田中さんの評価軸が間違いないことの証でしょう。

 

 

レジェンドの笑顔と愉快なエピソードが随所に

そのうえで「ラーメン狂走曲」の魅力を解説します。書籍の帯には「この本はラーメンガイドブックではありません。ただおいしいだけのラーメン店を知りたいなら、ほかの本をご覧ください。」とあり。これはつまり、麺やスープなどの味わいやスペックを中心に紹介するガイドブックとは一線を画しているということです。

 

↑黄色いカバー題字は、サニーデイ・サービスのヴォーカル&ギター・曽我部恵一さんが手掛けています

 

特筆すべきは、店主のバックグラウンドや人となりがよくわかること。確かにほかのラーメンガイドブックにも、経歴や写真を載せることはあるでしょう。ただ田中さんは訪れた全店に何度も通うファンであり、多くの店主とは仲良し。また、自ら取材と執筆をしているので情報量が濃く、さらにフランクにツーショットを撮っているので店主の表情が自然なのです。

 

↑かつて新宿御苑前にあった名店「佐高」にて。普段は寡黙なご主人だけに、ラーメンマニアからすれば奇跡の笑顔

 

そして、味わいよりも店主のストーリーやラーメン愛、哲学などにフォーカスしているということは、保存性も高いということ。なぜなら、ラーメンの味は時代とともに進化していくことがほとんどである一方、店主のラーメン愛は不変だからです。

 

2022年時点で人気の味が数百杯紹介されている最新ラーメンガイドブックと、ラーメン史に残るレジェンド&未来のレジェンドが愉快なエピソードとともに150人以上笑顔で紹介されている「ラーメン狂走曲」。どちらに価値があるかと問われれば、答えは簡単でしょう。

 

 

「新潟拉麺大学」は地元ならではのほっこり話も満載

「ラーメン狂走曲」には、新潟県のローカル誌「Komachi」で4年近く連載された田中さんのコラム「新潟拉麺大学」全44話を加筆修正のうえ完全収録しています。なお「Komachi」はただのローカル誌にあらず、情報の質・量ともに圧倒的な熱量で制作されていて、同業者として僕がリスペクトする雑誌のひとつ。

 

↑「新潟拉麺大学」は同県にある名店を田中さんが訪れて教授(店主)から聞いた話をもとに研究し、体系的に紹介。これまた独創的な切り口が特徴です

 

地元出身ではない女優さんなど芸能人が表紙や巻頭に登場することもあるほか、強力連載陣には田中さんのほか、料理芸人のクック井上。さんなども名を連ねていました。そのクオリティの高さも、本書「ラーメン狂走曲」を読めばわかると思います。

 

また、ラーメン好きのなかでは有名ですが、新潟は全国でも有数のラーメン県。お米や日本酒だけではないのです。そして「新潟拉麺大学」では、同県五大ラーメンに挙げられる「新潟あっさり醤油」「越後濃厚味噌」「燕・三条背脂」などの各レジェンド店にも訪れつつ、新潟各地の知られざる名店も紹介しているのが田中さんらしいポイント。ビギナーにもマニアにも、おいしいセレクトになっています。

 

個人的に好きなエピソードが、新潟市内にあった「めん処 くら田」の回。概要をお伝えすると、長年取材NGで謎に包まれていた老舗が、通い詰めた編集長の熱意と人柄でOKとなり、フタを開けてみたら「歳で閉めようと思ったけどせっかく取材してもらったからもうちょっと頑張るよ(By店主)」的な展開です。

 

↑「めん処 くら田」の回は、「大スクープである。」の出だしから、グイグイ引き込まれる構成

 

「めん処 くら田」は取材時から約3年後の2021年暮れに閉店してしまったのですが、編集者の情熱、取材OKをいただけたときの嬉しさ、店主さんの温かさ、そして田中さんのお店への愛をひしひしと感じる内容。ほかにも「新潟拉麺大学」には、ローカルならではのほっこりエピソードが満載です。

 

駆け足で「ラーメン狂走曲」の魅力を紹介しましたが、きわめて価値的な一冊であることがわかっていただけたのではないでしょうか。表紙からしてインパクト大の全216ページ。サニーデイ・サービスファンやラーメン好きはもちろん、全グルマン必読の一冊だと断言します!

 

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