甘香ばしく爽やか……多彩なグレーンが次々と主張する
いよいよテイスティング。まずは完成品の「ニッカ ザ・グレーン」から。伸びやかな甘みとロースト感のある香ばしさが立っていて、香りには焼きりんごのような甘い爽やかさも。
「華やかでコク豊かなカフェグレーンとカフェモルトの甘さに始まり、麦の香ばしさやコーンの甘み、ライ麦由来の爽やかさを感じた後にすっきりと終わる。次々に主張する香りや味わいがどの原酒由来なのか、想像しながらグラスを傾けていただきたいですね」(綿貫さん)
特に個性的なのは、まろやかに響くスイートな香ばしさ。これは九州の焼酎蔵から生み出されるグレーンによるものでしょうか?
「そうですね、明確なキャラクターを生み出しているのは九州産。特に、さつま司のコーン・ライ麦原酒は名バイプレーヤーだと思います。やっぱり酒質がバーボンに近く、甘いバニラ香をもっているんですね。それでいて爽やかなニュアンスもあって、コクや膨らみといった味わいにおいて、素晴らしい働きをしてくれました」(綿貫さん)
九州産原酒は今後どうなる? 2024年の記念商品は?
今回使われた九州産グレーン原酒は初の採用であり、しかも存在自体を明かすのも初めてとのこと。そもそもいつから造りはじめたのでしょうか。背景や狙いを聞くと、実は「NIKKA DISCOVERYシリーズ」用ではなかったそうです。
「九州でグレーン原酒を造りはじめたのは2017年で、最初に門司工場で試験製造を開始しました。今回のブレンドにも2017年のファーストバッチを使っています。『NIKKA DISCOVERYシリーズ』の企画前ですね。造りはじめた理由は、私たちの探求心ももちろんありますが、それ以上にお客様への新しい価値提供に繋がるという期待が大きいです。原酒の多様性とともに、ブレンデッドウイスキーの幅を広げたい。それが目的です」(綿貫さん)
とはいえ、実験的な要素も大きかったと綿貫さんは言います。今回採用に至ったのは、想像以上に良質なグレーン原酒になったから。そのため、蒸溜し3年熟成させたあとのテイスティングで納得するまでは、マーケティング側にも原酒の存在を話していなかったそうです。
「『ニッカ ザ・グレーン』の発想は『カフェ式連続式蒸溜機』の節目というところから始まりましたが、グレーンがテーマなら九州産の原酒も使えるな、と。そして、今後はこれを機に九州産グレーンの生産量も増やし、ゆくゆくは挑戦的で新しいウイスキーの開発もしていきたいと思っています」(綿貫さん)
ジャパニーズウイスキーは、“日本のウイスキーの父”竹鶴政孝氏が、スコットランドへのウイスキー留学の知見をもとにして生まれたという経緯があり、つまりスコッチウイスキーのDNAをもっています。竹鶴氏が設立したニッカウヰスキーはその直系であり、アメリカンタイプのウイスキー原酒づくりは勉強になったと綿貫さん。
「モルトウイスキーには伝統的な美学がありますが、原料はモルトのみ。一方でグレーンウイスキーは様々な原料由来の香味を得られるので、そういう点は面白いと思います。ブレンダーの腕の見せ所でもありますし、ぜひ今後もご期待ください」(綿貫さん)
今後となると期待してしまうのが、90周年を迎える2024年。そしてさらなる先には2034年のニッカウヰスキー100周年があります。今回は90周年に向けて2021年から「NIKKA DISCOVERYシリーズ」を発売してきましたが、90周年はもちろん、100周年のときはより盛大なプロジェクトを企画するのでは?
「実はまだ決まっていません。とはいえ2024年には『NIKKA DISCOVERYシリーズ』とは別ですが、お客様にお喜びいただけるような90周年商品を造りたいです。その次はまだ先の話ですが100周年ですよね。いまのところまったく見当もつきませんが、さらに記念すべきアニバーサリーに向けてニッカの技術を磨いていきたいと思います」(綿貫さん)
「ニッカ ザ・グレーン」は今回も国内1万本限定と、激レア。限定ウイスキーなどに関心の高いウイスキーファンに向けて、飲食店を中心とした業務用での展開を予定しているとのことなので、味わうならモルトバーに行くのが正解といえるでしょう。