「週刊GetNavi」Vol.28-4
Bluetoothの音声伝送において問題となるのは、音質だけではない。「著作権保護」と「遅延」も、意外と頭の痛い問題だ。
デジタル伝送では、伝送時にデジタル化した音声をそのままコピーすることも不可能ではない。普通の利用者なら考えもしないことだし、その手間も軽いものではないのだが、厳密な対策を求める著作権者には見逃せない穴になる。そこで、音声を伝送するA2DPプロファイルでは、「SCMS-T」と呼ばれる技術で暗号化・著作権保護を行う機能が用意されている。この要素は、特に日本ではワンセグの音声をBluetoothで聞くために必須とされた。一部の海外製の製品などでワンセグ非対応なのは、「SCMS-T」に対応していないことが理由である。現在、日本で販売されるBluetoothヘッドホンやスピーカーのほとんどではワンセグ機器と接続可能になっているし、対応も簡単になっているので、そう大きな問題ではない。
もう一方の「遅延」はちょっと面倒だ。Bluetoothで音を聞きながらゲームをしたりワンセグ放送を見たりすると、ごくわずかに「音が遅れる」感じがすることがある。これは、Bluetoothで音声を送るために再度デジタル化する際にかかるわずかな時間が問題となるためだ。特に、Bluetoothで一般的に使われているコーデックであるSBCは、再デジタル化に伴う遅延時間が長い。SBCでは170から270ミリ秒、すなわち最悪の場合、4分の1秒弱も遅延してしまう。これでは、口パクと音がずれるのもしょうがない。
遅延は機器の構成によって大きく異なるが、それでも、コーデックの差がもっとも大きな理由になっているのは間違いないようだ。他のコーデックの場合にも「再デジタル化」が絡む以上、ゼロにするのは難しい。「AACでスマホ内に蓄積された音楽を、BluetoothのAACコーデックで伝送する場合には、再デジタル化が行われない」とする話もあるが、実際の挙動を見るとそんなことはなく、やはり若干の遅延が発生する。メーカーの評価では、最大150ミリ秒程度の遅延だとされている。SBCよりは少ないが、小さな値ではない。
この点で高い評価を受けているのが「aptX」だ。aptXは低遅延を特徴とするコーデックで、再デジタル化に伴う遅延が60ミリ秒から80ミリ秒と、SBCに比べ格段に小さい。aptXに対応している機器は「高音質」と言われることが多いが、実は遅延の面でも有利になっている。また、aptXをライセンス提供するCSR社は、より遅延の小さな「aptX Low Latency」という技術も用意している。こちらならば、遅延は40ミリ秒未満になる。同社はテレビやゲームなどの遅延が問題となる用途向けに提案している。aptXとaptX Low Latencyには互換性がなく、aptX Low Latencyを使うには対応機器が必要だ。現状、デノンの「DSB-100」など少数の機器しか対応していないが、今後は対応が進んでいくことだろう。
ところで、ソニーが新たに打ち出したLDACの場合、遅延については情報がない。少なくともソニーは「高音質」をウリ文句にはしているが、「遅延低減」は謳っていないし、筆者もソニー側から遅延についての説明を受けていない。新しいコーデックなので、遅延が特に大きくなっているとは思えないが、aptX Low Latencyのように極小とは言えない可能性は高い。
その辺も含めて考えると、当面は「高音質はLDAC、低遅延はaptX」といった風に併用される可能性もある、と考えた方が良さそうだ。
Vol.29-1は「ゲットナビ」4月号(2月24日発売)に掲載予定です。
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