「週刊GetNavi」Vol.40-4
Bluetoothによるワイヤレスヘッドホンは音が悪い、といわれてきたが、特に2015年以降、音声伝送に使う「コーデック」の進化によって音質はかなり向上してきた。ソニーが導入した「LDAC」は、さすがに音質劣化ゼロ……ではないが、CDクオリティの音源ならほぼそのまま、ハイレゾでもかなり元の音に近い質のまま、ワイヤレスで伝送できる。2015年に発売された同社製のスマホやウォークマン、ヘッドホンのほとんどで採用された。今年1月には、Bluetooth技術大手のCSRを買収したクアルコムが、aptXの上位版である「aptX-HD」を発表。搭載製品出荷は2016年後半からと見られるが、こちらもLDAC同様24bit伝送に対応し、ハイレゾに近い音質が実現できる。
これで万事解決……といかないのが、ワイヤレスの面倒なところだ。
LDACやaptX-HDでは、音に使う伝送帯域を広くする(要は、より大量のデータを流す)ことで音質を上げている。LDACの場合には、Bluetooth標準のSBCに比べ、最大で3倍の帯域を使う。これは、Bluetoothそのものの技術革新によって実現したものだ。だが、通信が問題なく流れるときはいいものの、電波障害などによって通信が途切れやすくなるとどうだろう? 帯域が狭い時は電波障害の影響も受けづらいが、帯域が広いと、障害の可能性は高まる。Bluetoothの使っている2.4GHz帯は、Wi-Fiなど多数の通信で共有される帯域なので、近年は常に逼迫している。人が多くいる場所などでは、高音質コーデックを使っていると、音が切れやすくなることもある。
そもそも、ワイヤレスヘッドホンの最大の難点は「音飛び」だ。帯域を多く使う高音質対応製品や、左右の耳をワイヤレスでつなぐ「完全ワイヤレス製品」の場合、通信量が多くなるぶん障害の可能性が高まる。
このため、非常に重要になってくるのが「通信品質」だ。現在のBluetoothヘッドホンでも、メーカーによって「通信が切れにくい」「通信が切れやすい」製品は確実にある。ところが、その辺はきちんとした指標もなく、スペックでわかるものでもない。あくまで私見だが、ソニー製のBluetoothヘッドホンは音飛びが少ないし、同様にBoseやプラントロニクスなどBluetooth「ヘッドセット」でも経験の多い企業のものは、安心して使える印象が強い。Beatsもアメリカ市場で揉まれたせいか、通信品質に関する評判は良好だ。
これから、日本でも「高音質モデル」「完全ワイヤレスモデル」を中心に、ワイヤレスヘッドホンの需要が高まるものと予想されている。そのような製品では通信品質の善し悪しが、製品の満足度に直結する。
また音質については、ちょっと意外なことに、音を出す機器、例えばスマホやオーディオプレイヤーの設計によって、Bluetooth経由であっても音は変わる。これもスペックでは見えないところだ。
オーディオは官能の世界なので、なかなか数字には現れない。ワイヤレスであっても、有線の製品以上に、製品のレビューや口コミを見て判断するしかなさそうだ。
●Vol.41-1は「ゲットナビ」5月号(3月24日発売)に掲載予定です。
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