空に舞い上がり手軽に空撮ができるカメラを搭載したドローンの人気が高まっている。最近は飛ばすことのできるエリアや高さなどの規制が強化されているが、それだけ利用者が増えているということだろう。ちょっと前ならばヘリコプターや航空機を使ってしか撮影できなかった空撮も、今では数万円のドローンを買えば誰でも手軽に行えるようになった。
世界のドローン市場のシェアトップは中国のDJIで、そのシェアは7割とも8割ともいわれている。この圧倒的な強さを誇るDJIに追いつこうと、多くのメーカーがドローン市場に参入している。だがDJIでもまだ参入していない分野に目をつけ、そこでのシェア確保を狙うメーカーも増えてきた。その分野とは水中ドローンだ。
水中ドローン市場にメーカーが続々参入
ドローンがヘリコプターのように空を飛ぶのとは逆に、水中ドローンは潜水艦のように水中を進む。もちろんカメラを搭載しているので、水中のライブ映像を地上でコントロールするスマートフォンの画面で確認することも出来る。また魚群探知機をオプションで備え、魚の群れを探して撮影したり、釣りをするときのサポート機能を備えたりしたものもある。この水中ドローンはすでに複数社が製品を販売しており、「水面下」で熱い戦いが繰り広げられているのだ。
海外のIT関連の展示会のドローン関連ゾーンでも、水中ドローンを展示するメーカーが増えている。それらのブースを探すのは簡単だ。一般的なドローンがネットで覆ったデモ飛行ゾーンを構えているのに対し、水中ドローンの展示は大きな水槽か、一般家庭の庭に設置できそうな組み立て式の簡易プールをおいているからだ。水中ドローンというからには水中での走行デモを見せなくてはならず、デモを披露するのも大変なのである。
水中ドローンメーカーの展示ブースでは、水中を舞う自社製品の潜水映像が流されていることもある。しかしこれは水中ドローンを外から撮影したものであり、水中ドローンに搭載したカメラからの撮影動画ではない。水中ドローンは水の中に潜ってしまえば、地上からその本体を見ることはできない。しかしメーカーとしては、美しいフォルムの自社製品が水の中を舞う様を見せたいのだろう。
空撮の次は水中撮影と、水中ドローンブームがくることを各メーカーは期待している。しかし水中ドローンは空中を飛ぶドローンとは違い、簡単に水中を撮影できるものではないようだ。展示会での水中デモ走行を見ると、両者が大きく違う製品であることを思い知らされる。
水中ドローンはケーブル必須
まず水中ドローンはワイヤレスでは利用できず、本体にはケーブルを接続する必要があるのだ。冒頭の写真もPowerRay本体にケーブルが繋がっている。これは水中ではWi-Fiの電波が通じにくく、スマートフォンからのコントロールが出来ないためだ。また空中ドローンは電池が無くなれば地面に落下してくるし、強風で飛ばされても目視で落下地点を推測できる。しかし水中ドローンは電池が切れれば海中の奥深くに沈んでしまうし、水中の流れのはやい場所に迷い込めば一気に流されてしまう。ケーブルは本体の紛失防止の意味としても必要なのだ。
つまり水中ドローンはこのケーブルの総延長よりも遠い場所を潜らせたり、水中撮影することはできないのである。ケーブルの長さは70メートルや100メートルなど、十分な長さのものが付属するが、撮影終了時にそれを巻き取って収納するのも結構大変だろう。空中ドローンのように「さっと飛ばして、すぐに回収」とはいかないのだ。
しかも水中ドローン本体の耐久性も、ケーブルが100メートルだからといって100メートルまで潜れるわけではない。たとえばPowerRayは水深30メートルまでが利用可能だ。浅瀬で操作していても、水に流され水中深くもぐってしまうと本体そのものが破損してしまう恐れがある。
このように空を飛ばすドローンの感覚で使えないのが水中ドローンのマイナス点だ。とはいえ南の島の水中を泳ぐ魚の群れの動画などは、スマートフォンやデジカメを水中に潜らせて撮影することはできない。感動できる思い出のシーンをどうしても撮影したい人にとって、水中ドローンはやはりどうしても欲しいものになるだろう。ダイビングなどマリンスポーツをしている人なら、水中ドローンを使って自分の姿を撮影することもできる。
ドローンの普及初期は、多くの先人たちが当時は高価なドローンを購入し、落下破損させてはノウハウを構築し、それの知見がメーカーへもフィードバックされていった。水中ドローンはまだ製品が出てきたばかりであり、ドローンが登場した数年前の黎明期と似た状況である。数年もすれば手のひらサイズで手軽に使える水中ドローンが登場しているかもしれない。水中ドローンの今後の製品に期待したい。