「週刊GetNavi」Vol.61-1
顔の立体構造の把握が認識精度と速度を両立
11月に発売されたiPhone Xは、「ホームボタン」を過去のものにした。それと同時に導入されたのが顔認証システム「Face ID」だ。発売前は「指紋認証のほうが使いやすいのでは」との懸念もあったが、それも杞憂に過ぎなかった。とにかく素早く正確なのだ。画面を見つめればすぐにロックが解除され、指紋認証よりも早い。iPhoneが自分を「顔パス」してくれるような感じで、認証があることを意識させない。過去のスマホ用顔認証とは、かなり趣の違うシステムである。
多くの「顔認証システム」は、カメラでとらえた平面の画像で顔を識別する。その場合、帽子やメガネの有無、髪型の違い、ヒゲの濃さなど、いろいろな条件で「本人かどうか」の判定が難しくなる場合がある。そこで条件をゆるくすると誤認識が増え、厳しくすると使い勝手が落ちる。精度は認識速度に比例し、安全性を担保しようとするほど、動作が遅くなってしまう。
一方でFace IDは、赤外線センサーと画像センサーを組み合わせた「True Depthカメラ」を使い、「顔の立体構造」を把握し、それを元に認証する。だから、メガネや髪型、ヒゲの有無、化粧など、表面的な部分に多少違いがあっても、顔の形の特徴が変わっていなければ「本人」と認識する。立体情報なので分析に時間がかかりそうに思えるが、むしろ「本人を特定するための特徴的な手がかり」が増えるので、認識速度は上げやすい。だから、Face IDは指紋認証と同等以上の使い勝手を実現できたのだ。
顔を立体として認識するシステムは、これまでスマホには大規模に導入された例がなく、iPhone Xがもっとも先進的だ。だが、こうした取り組みはIT機器全体では初めてではない。業務用のものでは存在したし、マイクロソフトがWindows 10用の認証システムとして提供している「Windows Hello」の顔認証システムも、赤外線センサーを併用したカメラが使用されている。そのため、マイクロソフトの「Surfaceシリーズ」などのWindows Hello搭載PCは、素早くて快適な顔認証を実現している。
ただし、Windows HelloとFace IDにも違いはある。Windows Helloは認証に特化しており、顔を完全な立体データとしてまでは把握していない。認識データは変わらないため、長い間使わないうちに太ってしまったり、あまりに髪型が変わったりすると、再認識が必要になることもある。一方でFace IDは、顔をかなりの精度で立体データとして認識したうえで、認識のたびに学習を続け、常に「最新のその人の風貌」で認識率が高まるようにするという工夫がされている。
どちらにしろ、こうした「立体構造を使った顔認識」自体は望ましい技術であり、今後さらに普及していくだろう。
だが、顔認識の普及は「セキュリティの向上」を意味しているわけではない。むしろ顔認識とセキュリティの高さにはなんの関係もない、と考えるべきだ。それはなぜなのか? では、セキュリティ向上にはなにが重要なのか? 顔認証に今後どのような広がりがあるのか? そのあたりは次回のVol.61-2以降で解説する。
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