デジタル
2017/12/19 18:00

スマートスピーカーとは何が違う? 人工知能を手にした「スマートホーム」がもたらす生活

ここ最近、「スマートスピーカー」と呼ばれる製品への注目が高まってきている。スマートスピーカーとは、音声で照明をコントロールしたり、楽曲やビデオを流してくれたり、天気予報や最新ニュースを教えてくれたりする“賢いスピーカー”のことを指す。もっとも、スピーカー自体が賢いというより、インターネットで接続した先にあるAI(人工知能)が、わたしたちの発する言葉を解析し、コマンドを出すのだ。

 

では、「スマートホーム」はどうだろうか。さらに、スマートホームが人工知能を手に入れると生活はどのように変わるのだろうか。2016年12月からスマートホームを手がけてきた投資不動産ディベロップメント事業会社インヴァランス代表取締役 小暮学氏と、米 Brain of Things(以下、BoT)CEO アシュトシュ・サクセナ氏に話をうかがった。

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↑Brain of Things アシュトシュ・アシュトシュ氏とインヴァランス 小暮学氏

 

完全なスマートホームが“不完全”だった理由

まず、スマートホームとはどのようなものなのだろうか。簡単にいえば、室内にある照明器具、エアコン、給湯器などのデバイスを、IoT技術によりスマートフォンでコントロールする仕組みを備えた家のことである。

 

インヴァランスでは、自社のそのIoTシステムを「alyssa.(アリッサ)」と名付け、同名のスマートフォンアプリで操作できるようにした。「これまでの家づくりは数百年もの間、地震や火事、水害などに持ちこたえられるように構造を強くしたり、お風呂やキッチン周りなどの設備を充実させたりと、ハード面での改良に重点を置いてきました。インヴァランスではその次の段階として、ユーザーエクスペリエンスの部分が重視されるべき、と考え、IoTを住まいに組み込むことにしました」と、システム開発の経緯を小暮氏は説明する。

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↑IoTを利用して外出先でもスマートフォンから室内の機器をコントロールできるようにした「alyssa.」システムの専用アプリ

 

alyssa.がスマートスピーカーやほかのスマートホームと決定的に異なる点は、建物の建築設計から携わる会社が提供している、ということ。構造を無視して、ガス器具など火を扱う器具のコントロールシステムを後付けすることは建築基準法上難しいが、それを熟知しているデベロッパーのインヴァランスだからこそ、外出先からガス給湯器を扱うシステムも載せられるのだ。

 

このようにスマートホームとしては完璧ともいえるシステムを構築した小暮氏だが、「これでは不十分だ」と言う。「スマートホームともてはやしても、結局家の中にあるスイッチをスマホで持ち出せるようにしただけ。スマホと家をつなげた単なる“コネクティッドホーム”に過ぎず、自分たちで操作しないといけないためスマートとは言えない。それらを自動化した、本当の“スマートさ”のために、AIは必須なのです」。

 

そのように考えていたところ、AIにおける博士号を取得したアシュトシュ氏率いるAI開発ベンチャー企業BoTのプロダクトに触れ、BoTと提携。2015年に完成していた、居住者の生活パターンを学習してより快適に過ごせるAIスマートホームシステム「CASPAR(キャスパー)」を同社のスマートホームに組み込むことにしたのだ。

 

スマートホームがAIを手にすることで生じる変化とは?

アシュトシュ氏は、「CASPARを組み込んだスマートホームはインテリジェントパートナーになり得る」と言う。そして、なぜスマートスピーカーだけでは足りないのか? という質問に次のように答えた。

 

「自動車の自動運転のことを考えてほしい。実際に運転するには道路状況を確認しつつ、アクセルやブレーキ、ウィンカーやハンドルなどの操作をする必要がある。もし、これらをすべて音声でコントロールする必要があるとしたら、コマンドを出し切れるだろうか。その必要をなくすために開発されているのが自動運転のAIなのである。

同じように、家の中でコントロールしたいものは、オン/オフの切り替えだけでなく、明るさや温度など微妙に調整の必要なものがある。例えば、『映画を見たい』という場合、ディスプレイをオンにするだけでなく、カーテンを閉め、照明を少し暗くする、といった具合だ。『テレビつけて』『東側のカーテン閉めて』『少し暗くして』とすべて指示するのは大変だろう。自分だったらこうするだろう、というようなことをひとつの音声コントロールで、いわば行間を読んで先回りしてやってくれるのがCASPARのようなAI、インテリジェントパートナーなのだ」

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↑「CASPAR.AI」のマイク・スピーカー。住人は明確な指示がある場合、「CASPAR」と呼びかけるが、大抵の場合は室内各所に設置したセンサーが住人の行動を把握し、例えば、廊下を通ってトイレに行けば明かりをつけるなど、自動的に機器をコントロールする

 

最新技術を駆使したスマートホームが高齢者の自立を支援

来るべき高齢化社会に向けてもAIを組み込んだスマートホームは重要になってくる、とアシュトシュ氏は言う。

 

「もちろん、音声コントロールはスマートスピーカーやスマートホームにとって、なくてはならないものだが、それは機能の一部にすぎない。もしベッドから起き上がろうとしたとき、またはトイレに入ったときに意識を失い倒れてしまったら、声を出して助けを呼べるだろうか。CASPARなら、部屋の各所に設けたセンサーと連動しているため、住人の動作や発する音から状況を解析し、助けを呼ぶことができる。高齢者が介護施設ではなく、自分の力で生活するのに不安がないようにするのもインテリジェントパートナーの役割であるといえよう」

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↑CASPARを組み込んだ高齢者向け住まいの実験。実際にセンサーが感知するのは熱(人がどこにいるのか)や音声などだけだが、それでも行動は把握できる。ここでは住人がベッドの上で咳き込んでおり、音声センサー(右下)がそれを拾い、右上のグラフには「Coughing(咳)」と表示。咳が何度も続くようであれば、看護師が駆けつける仕組みになっている

 

実は、米国でも一人暮らしの高齢者をどのように支援するのか、といった課題を抱えているという。普通の人にとって簡単なことでも、高齢者にとっては就寝前に明かりやガスコンロの火を確認して消すといったことは難しい場合もある。そのため火災のリスクも高まっているのだ。

 

そのような課題に取り組むべくBoTは、2018年の完成に向けて米カリフォルニアに130棟の高齢者向けアパートを建設中。完成すれば、介護施設に移り住まずとも、一人暮らしをしていくことが可能になるという。

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↑部屋の各所に設置したセンサーが、住人の行動を把握。指定時刻に薬を飲む行動を取っていないようであれば、「まだ薬を飲んでいません」と服薬を促す

 

建設中の高齢者向け住宅には、異変が起きたときすぐ駆けつけられるよう担当者が24時間常駐するが、「将来的には『介護ロボット』がその役割を担えるよう、ロボティクス分野の開発もすでに行っている」とアシュトシュ氏。スタンフォード大学で博士号を取った際のロボティクス関連知識を生かし、6年後をめどに実現を目指しているという。

 

さらに、朝起きる時刻や自宅での学習時間、歯磨きなど子どもが達成すべき目標をサポートするサービスも開発中だという。「毎朝、決まった時刻に子どもたちを起こし、もちろんスヌーズ機能もつけ、歯を磨いたり勉強したりしなかったら親にレポートするといった機能もつけます」とアシュトシュ氏は笑う。
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わたしたちが子どものころに思い描いていたマンガの世界のような未来が、もうすぐそこまでやって来ているのかもしれない。