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2018/3/6 7:00

【西田宗千佳連載】「エレクトロニクス復権」を掲げた平井ソニーの戦略

「週刊GetNavi」Vol.64-2

平井一夫氏がソニーの社長になったのは、2012年4月のこと。前任はテレビ局CBSの社長も務めたハワード・ストリンガー氏だった。平井氏の社長就任はストリンガー氏の後押しがあってのものだ。「2世代続いて、エレクトロニクスと縁遠い、エンターテインメント系事業を推す社長の就任」と見られ、「エレクトロニクスのソニー」という印象が薄れるのでは……との観測もあった。平井氏が社長に就任した当時、ソニーの業績回復に期待する声はそれほど大きくなかったのだ。平井氏がまずリストラと構造改革に手をつけた時にも、「エレクトロニクスの領域はこのまま減り、ソニーはもっともっと小さい会社になる」と思った人も多いようだ。

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↑ソニーの平井一夫社長

 

だが、結論からいえば、平井氏の戦略は「エレクトロニクスそのものの復権でソニーの業績を立て直すこと」だった。平井氏はかなり意識的に「ソニーの本業はエレクトロニクスである」と強くアピールしていった。

 

では、どんな手法を使ったのか? 簡単に言えば「止血と利益率改善」である。

 

まず、ソニーのなかでは成長が難しいPC事業の「VAIO」を切り離し、投資ファンドに売却したのち、ソニーからは独立した「VAIO株式会社」とした。テレビやカメラの事業も本社から切り出したものの、こちらは完全子会社としてソニーの傘下に置き、独立採算制として利益率を高める手法を採る。

 

これらの措置は、ソニーの収益に悪影響を及ぼす赤字構造を解消するためのものだ。2000年度後半から2013年頃まで、ソニーのエレクトロニクス事業を蝕んでいたのは、「低価格製品の大量生産・大量販売」というモデルだった。技術の進化によってデバイスのコストが下がり、他社と似たスペックのものを安く作ることが容易になった。かといっていたずらに販売数量を増やせば売上が上がる一方で、利益率は下がる。特に昨今は、中国・韓国メーカーとの価格競争も厳しい。もはや「デバイスを調達して組み上げる」力では、他国と日本メーカーの間の差は小さく、大量に利益率の薄い製品を売っていくというモデルではうまくいかないのだ。だが、目の前で「売上」は立っているだけに、こうしたモデルを止めづらいのも事実である。

 

だが、平井氏はまずこのモデルからの脱却を徹底した。一時的に売上は落ちるだろうが、価格勝負からは一斉に引き、価格の安さでしか戦えない商品ジャンルを減らし、高付加価値型の製品のみを残す形にしたのである。高付加価値製品であればソニーの独自性を出せるし、利益率も高い。「売上より利益率」を明確化することが、平井氏のエレクトロニクス事業復活の軸足だった。とてもシンプルな戦略だが、これを徹底したことが、2014年頃から明確に実を結び、エレクトロニクス事業の復権に結びついたのだ。

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↑画面を振動させて音を出す独自技術「アコースティック サーフェス」を搭載した有機ELテレビ「ブラビア A1シリーズ」

 

高付加価値型製品を作るということは、デザインや機能で工夫しないと生き残れないということでもある。そのことは、ユニークだったり高性能だったりする製品への注力を生み、ブランド力の点でもプラスに働いている。昨今のソニー製品は、5年前のものに比べ面白くなったと思うが、その背景にあるのは間違いなく「高付加価値型へのシフト」なのだ。

 

ただし、これらの施策がうまくいったとしても、エレクトロニクスとは異なる2つの収益軸がなければ、「エレキのソニー」復権はなかった。その一方で、計算とは違って、うまくいかずに終わった「3本目の柱」も存在している。それらがなんなのかは、次回のVol.64-3以降で解説する。

 

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