2007年から10年もの間「FeBe」(フィービー)として親しまれてきたオトバンクのオーディオブックサービスがリニューアルした。新名称は「audiobook.jp」(オーディオブックドットジェーピー)。
なぜこのタイミングなのか、リニューアルして何が変わったのか、どのような狙いがあるのか、などをオトバンク創業者であり代表取締役会長でもある上田 渉氏に聞いた。
「聴く読書」オーディオブックの認知度を上げ、ハードルを下げたい
――2007年にサービスを開始して、日本最大のオーディオブックサービスに成長し、親しまれてきた「FeBe」ですが、なぜ「audiobook.jp」としてリニューアルすることにしたのでしょうか。
オトバンク代表取締役会長 上田 渉氏(以下、上田):ありがたいことに、サービス立ち上げからずっとユーザー数が増え続けており、2017年度では、年間登録者数は前年比3倍という勢いで新規ユーザーが増えています。恐らく、スマートフォンの普及率が上がったことと、スマートスピーカーの登場が影響しているのかもしれません。
とはいえ、オーディオブックというコンテンツの需要はあっても認知度はまだまだです。そこで、コンテンツとしての一般名称とサービス名称を一緒にすれば、オーディオブックの普及や認知度アップにもっと拍車がかかるのではないか――そう考えて、よりわかりやすい名称に変更したんです。
――変わったのは名称だけなのでしょうか?
上田:いえ、これまでアラカルト販売(1コンテンツごとの売り切り)だけでしたが、聴き放題サービスも提供できるようになりました。現在、オトバンクでは2万3000点以上のコンテンツを有していますが、聴き放題ではそのうち1万点を月額750円で楽しんでいただくことができます。
――他社のオーディオブック聴き放題サービスの月額1500円などと比較すると、その半額で本の聴き放題がかなうということになりますね。
上田:オーディオブックをまずは試していただきやすく、気軽に導入しやすい価格帯を意識しました。とはいえ現状最新作は含まれていませんので、欲しい場合はアラカルト販売で購入いただくことになります。聴き放題では、落語、文芸、ビジネス書、語学学習などさまざまなジャンルの有名タイトルを楽しんでいただければ、と。
オーディオブックって、1冊1500円ぐらいするものもあるんですが、試したことのない人や、これから聴いてみようかな、と思っている人がいきなりその金額を出すのって難しいですよね。いちおうサンプル版を作品ごとにご用意していますが、それだけでは良さがわかりづらい。
また、ファーストコンタクトであれば、できれば良質なオーディオブックに触れていただきたい。それなら、まるまる一冊、いや、それ以上聴いていただき、オーディオブックならではの読書の良さを知っていただければと思い、この価格設定にしました。
最初の登録から30日間は無料ですので、オーディオブックへのハードルはかなり下がったんじゃないかな、と思います。
注)audiobook.jpの聴き放題では、月ごとではなく、登録日を起点に月額料金が発生する。初回30日間無料なので、4月18日に登録すれば、翌月5月17日までは無料期間、18日に初回の課金が発生、以降は毎月同日に課金が行われる。
――聴き放題に登録した人でも、audiobook.jpのWebサイトを見ていて欲しい新作があれば、同じアカウントで単品購入できるんですか?
上田:できます。気になるコンテンツの「商品情報を見る」から、「購入手続きへ」と進んでいただくと購入画面が出てきます。購入後はユーザーアカウントのライブラリに自動的に登録されますから、そのままアプリでお聴きいただけます。
ユーザーの要望を取り入れながら成長するaudiobook.jpサービス
――audiobook.jpアプリの特徴を教えてもらえますか?
上田:ライブラリに追加した本はダウンロードできるので、通信環境のないところや飛行機の中などでご利用いただけます。また、ちょっとだけ戻りたい、進みたいという場合には30秒ぶん“戻る”“進む”がワンタップでできるようになっていたり、スリープタイマーも搭載しています。また、人気機能である再生速度の変更は、0.5倍速から4倍速までスライダーを使って行えます。
オーディオブックのヘビーユーザーならではの要望を取り入れて改良したところもあります。ライブラリーを整理したいというニーズがあったので、新たに「お気に入り」フォルダを追加。「最近追加した項目」「最近再生した項目」に埋もれることなく、いつでもお気に入りの本にアクセスできるようになりました。
――要望があれば、どんどん取り入れて改良していく?
上田:ユーザビリティーはどんどん高めていきたいので、ご要望はどんどん寄せていただきたいですね。真剣に検討して、機能を追加していきたいと考えています。
また、不定期ではありますが、アラカルト販売の作品を期間限定で聴き放題として配信するというキャンペーンも行います。例えば、4月6日~5月3日は、小野大輔さんが主演・朗読された「世界から猫が消えたなら」(川村元気著・マガジンハウス刊)や、大川 透さんがゾウの姿をした神様を演じる「夢をかなえるゾウ」を聴き放題で楽しんでいただけます。
――audiobook.jpは、ユーザーと一緒に成長していくだけでなく、驚きも提供してくれそうですね。
「ながら読書」がオーディオブックの可能性を広げていく
上田:忙しい日常生活の中で本を読むのは大変という方もいらっしゃると思います。読書って、目を使う能動的な行為ですから。でも、オーディオブックなら、流しておけば自動的に耳に入ってくる、受動的な読書がかないます。気軽に取り掛かることができる。
もちろん目で読む読書の良さもありますが、オーディオブックは耳さえ空いていればできる読書なので、耳が暇なときに使ってもらえたらうれしいですよね。
――車で移動中にも良さそうですよね。
上田:手はハンドル操作に使っていますし、目は周りを注意して見るのに使っていますから、相性はいいですよね。最近の自動車のオーディオは、スマートフォンと連動できるものが多いですしね。
そのほか、ランニングや家事のお供に、またお風呂などでも耳で読書ができます。農作業のときに聴いている、という声もいただいています。日々、忙しくしていると、それだけにかかりきりになってしまいますが、世界を広げてくれる読書を、作業を中断することなく可能にするオーディオブックは、現代人にもってこいのコンテンツなのではないかな、と感じています。
聴いてみて面白かったら、今度は目で読む本も買って、受ける印象の違いを楽しんでいただく、というのもいいですよね。受動的に楽しめるオーディオブックをぜひ読書の入り口にしていただければと思っています。
筆者も「聴く読書」を楽しむひとりで多種サービスの聴き放題で「聴く読書」を楽しんできたのだが、月額利用料が1000円を超えると、動画や音楽ストリーミング配信サービスなどでよく見かける980円(3桁!)に比べて高いと感じてしまう層がいることも理解できる。
しかしそれが、わずか750円で、国内オーディオブックのパイオニア オトバンクの制作した上質なコンテンツが(1万点とはいえ)聴き放題になるという。これからスマートフォンを利用する人が減ることはないだろうし、スマートスピーカーも多くの家庭で使われることだろう。それらと相性の良い「聴く読書」オーディオブックは、audiobook.jpの開始で、普及に弾みがつくに違いない、と上田氏の話を聞きながら感じた。