Appleは6月4日(米国現地時間)、WWDC 2018の会期中に「Apple Design Awards 2018」の受賞者を発表しました。同賞は、優れたディベロッパーの才能・技能・創造性を表彰するもので、計10組のチームに授与されました。今回は、3名の受賞者にインタビューをする機会を得たので、彼らにWWDC 2018で発表された技術で、最も気になったもの」について尋ねてみました。
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翻訳アプリに、「画面を見なくてよい」というユーザー体験を。
1人目は、翻訳アプリ「iTranslate Converse」を開発したKrasimir Hristovさん。オーストリアのグラッツという街に拠点を置く、20名のチームで、同アプリを開発しました。受賞については、「“やったぞ!”という気持ちがありましたよ。これは、我々にとって画期的なことでした」と語ります。
同アプリの最大の特徴は、UIが非常にシンプルなこと。まずは、アプリを起動して、言語を指定します。画面上を3Dタッチしながら話すと、話しかけた言葉を設定した2言語のどちらかで認識して、もう片方へと翻訳します。対応言語は、日本語を含む38言語。7日間は無料で試せますが、その後は4,99USD/月などの料金を支払うサブスクリプション制へと移ります。
Hristovさんは、同アプリを開発した動機について、「翻訳アプリには操作が煩雑なものが多いんです。そこで、より“会話”そのものに集中できるように、シンプルなデザインを追求しました。他者がテクノロジーにフォーカスするなかで、我々はユーザーエクスペリエンスに焦点を当てたんです」と語ります。また、開発のポイントについては「最も重要だったのは、画面を見なくてよくするということ。3Dタッチを利用することで、画面上に表示されたボタンを確認しなくて済むようにしました。ただスマホを持っていればよいので、相手の顔を見て会話できるようになります」と述べています。
ちなみに、同アプリにはApple Watch版もリリースされています。同じように画面をタップして話すだけで使えるほか、腕の角度によって、文字表示の向きが手前と奥で入れ替わるので、相手とコミュニケーションが取りやすいデザインになっています。実はこちらも2017年に「App of the year」のApple Watch部門を授賞しています。
Q)今回のWWDCで発表されたなかで、最も気になったものは何ですか?
A)最も気になっているのは、「自然言語」を認識する新しいAPIです。自然言語の認識というのが、私たちが興味を持っているところ。ぜひ使ってみたいと思います。また、「ARKit 2」も今後の開発に活かせるかどうか、チェックしてみたいと思っています。
子どもとスマホの関係を改めて考える
2人目は、子ども向け音楽アプリ「BANDIMAL」を開発したYAYATOYのディベロッパーであるILARI NIITAMOさん。フィンランドのヘルシンキに拠点を置きます。社員は4名ですが、内3名でこのアプリを開発したとのこと。受賞については、「ちょっと衝撃的でした。一瞬“え…”ってなりましたよ(笑)。ステージに登ったときはドキドキしちゃいました。でもとにかく、とても幸せです」と驚きを隠せない様子でした。
同アプリの名前は、「バンド」と「アニマル」を掛け合わせた造語。その名の通り、動物たちを選択して、バンドを構成していきます。まず、動物を選び(これが楽器を選ぶのに相当する)、その動物の演奏パターンを指定します。3匹の動物に、それぞれ演奏指示を出したら、パーカッションのエフェクトを追加して、作曲は完了します。画面に文字は一つもなく、キュートなイラストで作られているのが特徴。小さな子どもでも、直感的な作曲体験ができます。同アプリの価格は480円。
NITAMOさんは、同アプリの開発動機について「元々は2015年に“LOOPIMAL”というアプリを作ったのが始まり。こちらは一つのシークエンスしかありませんでした。BANDIMALでは、より本来の作曲に近いことが行える。少し複雑になったんです」と語ります。また、開発のポイントについては「インターフェースを限りなく洞察的なものにする、という一つのルールに基づいて作っています。ただ、デバイスによって表示領域が異なるので、いろいろと試行錯誤を繰り返した部分もあります」と述べています。
Q)今回のWWDCで発表されたなかで、最も気になったものは何ですか?
A)「Screen Time」ですね。子ども向けのアプリを作る身としては、やはり「スマホ依存」について気にしています。しかし、これだけデジタルデバイスが普及した世の中で、どうやって子どもを切り離すか、という部分はよくわかりませんでした。なので、Screen Timeのような機能が登場したのは、とても喜ばしいことです。私たちは、「制限」について一旦忘れて、良いアプリを開発することに注力できそうです。
ゲームは経験を共有し、アートとの接点にも存在する
3人目は、ゲームアプリ「Florence」を開発したMountainsのクリエイティブディレクター、KEN WONGさん。オーストリアのメルボルンに拠点のスタジオを構えており、このアプリは4人で製作したといいます。受賞については「名誉なことだと思います。Appleのデザインとは、私たちにいつもインスピレーションを与えてくれるものです。ですから、Appleが私のこと、私たちの作品のことを認めてくれたというのは、とてつもなく嬉しいことでした」と冷静ながらも、喜びを表現していました。
同アプリは、何の変哲もない一般女性「フローレンス・ヨー」の日常に寄り添う形で進行していきます。朝起きて、歯磨きして、母親と電話で話して…。一コマ一コマが、何気ない日常のシーンで演出されています。そして、それぞれに小さなパズル(あえて「パズル」と言うほど小難しいものではないが)が構成されていて、それをクリアしながら物語を進めていきます。その魅力は、じわじわとクセになる、あるいは琴線にふれてくるような、優しい描写にあります。なお、アプリの価格は360円です。
WONGさんは、元々コンセプトアーティストで、その後アートディレクターの経験を経て、ゲームデザイナーとなったという経歴の持ち主。数年前に数々の賞を受賞したアプリ「Monument Vally」のデザインにも携わった人物です。同氏は、Florenceを開発したきっかけについて、以下のように語ります。ーー「Monument Vallyを作ったときに、素晴らしい体験をしました。いろんな人とのつながりができたんです。そこから新しいチームを作り、こういった体験ができるアプリを作りたいと思いました。普段ゲームをしない人にも響くような形で……。誰でも共感できるテーマってなんだろうと考え、恋愛を中心とした人間関係について扱うことにしました」。
「元々ゲームが大好きだったんです。任天堂もCAPCOMも大好きなんです」とWONGさんは述べます。「ゲームとは、アートになり得ります。一番重要なのは、お互いの経験を共有できる、そして美しいものをつくるということです。このアプリでは、キャラクターの体験を通して、自身との共通点を見つけてほしい。例えば、愛とか男女の恋愛について、私が思っていることをゲームに反映できますよね。ゲームをした人には、私の考えを分かってもらえるでしょう。ゲームというのは、常にアートとの接点に存在するのです」
Q)今回のWWDCで発表されたなかで、最も気になったものは何ですか?
A)「ARKit 2」がすごく面白いですね。アプリのデモをみる限り、Appleの古典的な非常に良いデザインだなぁと感じます。つまり「魔法的」なんだけれど、ちゃんと「現実的」に動くということです。我々の次回作に使うかどうかは、正直まだわからないですけどね。
筆者のようなユーザー目線からみると、機能に着目してしまうので、「Siri Shortcuts」や「Group FaceTime」が気になるものです。しかし、やはりディべロッパー視点で注目するポイントは異なりますね。三者三様な回答ではありましたが、トップディベロッパーが注目する「自然言語認識のAPI」や、「ScreenTime」、「ARKit 2」は、今後のアプリケーション製作に関して、大きな役割を担いそうです。
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