今年の春にドイツへ出かけた時に、現地でデータ通信に活用するつもりでSIMカードを購入しました。ところがホテルに着いてから、説明書に書かれている通りに開通設定をしてもまったく通信ができず。
滞在地から離れている空港近くのショップでSIMを買ってしまったので、文句を言いに行く時間の余裕もなく…。仕方がないので日本から持参したスマホで国際ローミングサービスを使って対処しましたが、海外パケットし放題のエリア内で4日間使っただけで、最終的には結構な出費になっていました。そして先日、アメリカまで出張する用事があったので同じ失敗を繰り返すまいと策を講じていたところ、Y!mobileから発売されている「Pocket WiFi海外データ定額」のサービスと、専用モバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi 701UC」を試す機会と巡り会うことに。
本機の大きな特徴は世界100以上の国と地域を対象に、セットアップも簡単なクラウドSIMが使えることです。仕組みとしては、海外用のSIMカードを調達したり、Wi-Fiルーターをレンタルするよりも楽になるはずですが、実際のところはどうだったかをレポートしたいと思います。
現地通信用のSIMカードが要らない。「クラウドSIM」に対応するWi-Fiルーター
Pocket WiFi 701UC(以下:701UC)は、最先端の“クラウドSIM”のサービスに対応するWi-Fiルーターです。クラウドSIMとは、通信端末に埋め込まれたSIMカードをクラウドサーバーから認証・制御して通信を行う技術です。1台の端末に対して複数のSIMを割り当てることができるので、例えばユーザーが通信サービスのエリアや方式が異なる地域を頻繁に移動する旅行や出張の機会に真価を発揮します。現在クラウドSIMのサービスを提供する事業者はいくつかありますが、今回テストした701UCはuCloudlinkの「CloudSIM Platform」に対応しています。
701UCのWi-Fiルーター端末もuCloudlinkが開発したものです。FDD/TDD/AXGPによる高速4Gデータ通信だけでなく、3G/2Gのネットワークまで幅広くカバーしています。端末が対応する最高通信速度は下りが72Mbps、上りが37.5Mbps。筆者が今回旅するアメリカではスペック上問題なく使える速度です。Wi-Fi通信はIEEE802.11b/g/nをサポート。最大5台までのデバイスを同時につなげられます。
本体にはクラウドSIMのほか、2つのnano SIMカードスロットを搭載しています。片方のスロットにはY!mobileのSIMカードを装着して、日本国内で毎月7GBを上限とするデータ通信が使えます。そしてもう片方のスロットもSIMロックフリーなので、現地で調達したSIMカードを装着してクラウドSIMによる通信との併用もできます。
やや大柄なのは5350mAhの大容量バッテリーが内蔵されていて、一緒に持ち歩くスマホを充電できるモバイルバッテリーにもなるからです。海外出張の時にはどうせモバイルバッテリーを最低1台は持ち歩くことになるので、その負担がWi-Fiルーターとまとめられるのはありがたいと言えます。
毎月のランニングコストはどれぐらいかかるのでしょうか。Y!mobileが用意している、3年単位の契約になるプラン「Pocket WiFi海外データ定額(さんねん)」のサービスは月額基本料金が3980円。これに海外データ定額の月額基本料金307円を足すと、毎月の支払額は4298円になります。機種代金4万824円のルーターを36回分割払いで支払った場合、賦払金については割引・キャンペーンの対象になる場合があるので、契約時にご確認ください。
加えて本機を海外に持っていくと、1日90円の海外利用料金を追加で支払うことになりますが、国内利用分とは別に毎月7GBのデータ通信量が世界100以上の国と地域で使えるので魅力的です。
年に1・2回ほど、短い期間の海外旅行に出る機会ぐらいしかないという方には、701UCは割高な通信手段になってしまうでしょう。しかし。海外に出かける頻度が高い方、1回の滞在がそこそこ長期に及ぶため、月に7GBぐらいのデータ通信量は確保しておきたいという方にはおすすめできそうです。
ネットワーク品質はとても安定していた
では実際に筆者が「Pocket WiFi海外データ定額」のサービスと701UCを試した成果を報告しましょう。
今回の旅先はニューヨークでした。日本からJALの飛行機に乗ってジョン・F・ケネディ国際空港の第1ターミナルに到着後、わりとスムーズに出国できたのですが、途中で拾えた空港の無料Wi-Fiスポットにうまくつながらず。そのまま時間の都合でタクシーに急ぎ乗り込んでしまいました。とりあえず無事アメリカに到着したことを家族にメールで知らせたかったので、701UCを起動しました。
701UCの設定はとてもシンプルで迷うところがありません。海外に到着したら本体の設定メニューを開いて「その他」から「SIM管理」を選択。「クラウドSIM」をタップして少し待つと、ホーム画面のアンテナが全て立って4Gアイコンも表示されました。あとはスマホのWi-Fi設定からホーム画面に常時表示されているアクセスポイントとパスワードを入力するだけ。ネットブラウジングやメールの送受信がサクサクとできて快適でした。
ホテルに着いてから、仕事はじめまでに時間の余裕があったので、ニューヨークの街を散策することにしました。筆者は最近、ガイドブックも持たずに海外に出てしまうことが多くなりました。滞在期間が短い出張ばかりだからということもあるのですが、Googleマップがあれば行きたい場所へのルートが電車やバスを乗り継ぐ方法まで込みで簡単に検索できてしまうからです。ということで頼みの綱であるGoogleマップと701UCを携えて、滞在初日はニューヨーク散歩を満喫しました。
701UCは接続方法を「クラウドSIM」に設定しておくと、最も安定しているネットワークを自動で拾って切り替えてくれるので、通信品質はいつでも安定していました。筆者は今回も大勢のプレスが集まる海外の展示会を取材したのですが、プレスルームに用意されているWi-Fiは大勢の関係者が同時にアクセスするため、不安定で使えないことがよくあります。今回は接続品質が安定している701UCを携帯していたため、仕事がとてもはかどりました。
ビジネス旅行とはいえ、ホテルの部屋に戻った後は自由に過ごせる時間もあったので、自宅のBDレコーダーにWi-Fi経由でアクセスして、サッカーW杯の放送を視聴しました。レコーダーのリモート視聴機能を使うと、大事なスポーツの試合などもリアルタイムにチェックできるので便利です。大勢の滞在客がシェアしながら使うホテルのWi-Fiだと、映像が途切れたり盛大にノイズが入ってテレビの映像が満足に見られないことも多いのですが、701UCのネットワークはとても品質が良く安定していました。
ただしパケット通信量はそれなりに使うので、あまり頻繁に使いすぎると7GBはあっという間に消費してしまうかもしれません。Y!mobileの「Pocket WiFi海外データ定額」サービスは毎月7GBのデータ通信量を超えてしまうと、海外の場合は月末まで64kbpsの低速モードに切り替わってしまい、翌月まで通常速度に戻せないので注意が必要です。
海外旅行の通信確保が、これでもう心配不要
クラウドSIMのサービスに対応する701UCを使ってみると、海外に出てからSIMカードの買い出しや、面倒な端末の設定が要らず、すぐにインターネットに接続できる環境が確保できる頼もしさを強く感じました。「設定が簡単」「通信品質が良い」ことも本機の大きな魅力です。不慣れな土地で、通信インフラを確保するためにやきもきする時間が要らないので、ビジネスユースには大変心強いアイテムになります。
今回は滞在先が1か所で、飛行機の乗り継ぎもアメリカ国内だったので、クラウドSIMの接続先切り替えを特に意識することもなかったのですが、例えばヨーロッパ内の複数の国をまたがって移動する旅行に出かける時には701UCが大活躍してくれると思います。毎月4300円前後のランニングコストもかかりますが、日本国内にいるときにも使えるので、海外に出る機会の多い方は、総合力で701UCの導入を検討してみる価値がありそうです。