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2019/1/10 18:30

なんで「9」じゃなかったの? 最新iPhoneのイマと未来をフィリップ・シラーに聞いた

「iPhone X」が登場したのは2017年秋のこと。それまでのシリーズの象徴でもあったホームボタンは無くなり、次の10年間を見据える端末として、特別な意味を持たされた端末でもありました。そして、同じタイミングで従来のナンバリングを維持したiPhone 8/8 Plusも登場しており、ホームボタンのある端末も選べる状態でした。

 

一方、2018年秋に登場したモデルは、すべてXシリーズの後継でした。「iPhone XS」を筆頭に、6.5インチの有機ELディスプレイを搭載した「iPhone XS Max」、そして液晶ディスプレイでありながらXと同じ操作体系を採用した「iPhone XR」がお披露目されたのです。

 

しかし、何故「9」ではないのかーー。長年iPhoneをナンバリング通りに追ってきた人には、こうした疑問が頭の隅を過ったかもしれません。この理由は「iPhone XR」の狙いに関係してきます。本記事ではそうした疑問を、ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントであるフィリップ·シラー氏へのインタビューから紐解いていきます。

「iPhone XR」の役割とは何か

まず、フィリップ·シラー氏はiPhone XRについて、次のようにコメントしています。

 

「iPhone XRを通じて、より多くの人々が『iPhone Xのテクノロジー』に触れられるようにすることが重要なのです。例えば、フルスクリーンのディスプレイ、Face ID、新しいジェスチャーでの操作、A12 Bionicチップ、そしてワイヤレスチャージ。こういったものはiPhone Xのテクノロジーとなります。」

それゆえ、この端末を「9」と呼ぶことはできないわけです。

 

↑iPhone XRは液晶ディスプレイを採用するが、ホームボタンはなく画面上部のノッチにTrueDepthカメラシステムを備える

 

つまり、iPhone XRというバリエーションは、単に「安く」「多く」を意図したものではなく、「新しいiPhoneのスタンダードを普及させる」という目的がある端末なのです。同氏はこう続けます。

 

「そのために多くのテクノロジーを開発しました。筐体はハイグレードのアルミニウムを使用しており、スマートフォンとしては最も強靭なガラスを使用しています。高度な液晶技術であるLiquid Retinaディスプレイを使っており、端末の角まで使った全面表示になります。ポートレートモードもシングルレンズのカメラで使用できる。多くの人が期待するようなパフォーマンス、それをよりお求めやすい価格で提供するようにしたかったのです。ですから、一切妥協はしていません」

 

象徴的なのは、iPhone XRに搭載されているチップセットがXS・XS Maxと共通して「A12 Bionic」であることでしょう。型落ちのチップセットを搭載した端末を安く提供することは決して珍しいことではありませんが、今回それを選択しなかった背景にはAppleとしてのブランド戦略があったのだろうと感じます。

 

「我々が知る限りでベストな端末にしたかったのです。A12 Bionicはグラフィックス性能やニューラルエンジンにおいて大きな飛躍をもたらしました。これを使わなければ、同じような性能のカメラをシングルレンズで実現することは叶わなかったでしょう。スマートHDRという機能にも同じことが言えます」

 

↑iPhone XRで撮影された写真(Apple Newsroomより)

 

今やスマートフォンにおいて、写真や動画を撮影してシェアする行為は、通話やメール以上に大切なコミュニケーションだとも言えます。「X」と同じエクスペリエンスをシングルカメラの「XR」でも届けるーー。これを実現するためには、A12 Bionicを搭載することが必須だったのですね。

iPhoneの「AR」が創る未来

Xのテクノロジーが普及した次の10年間を想像したときに、どんな新しい未来が創られていくのでしょうかーー。スマートフォンの源流を遡れば「電話」、つまりコミュニケーションツールにいきつきます。そう考えると未来の私たちは、今はまだ馴染みのない新しいコミュニケーションを当たり前に扱っているかもしれません。

 

そういった意味で「AR(Augmented Reality:拡張現実)」への期待は高まります。すでにAppleでは、ARのプラットフォームである「ARKit 2」を提供中。これを使えば、iPhoneのカメラを通した画面上にキャラクターを表示し、それが床や机の上、壁などにピッタリくっついた状態で表現できます。また、複数人で同じARの空間を共有することもユニークです。A12 Bionicを搭載する最新モデルならば、こうした処理も快適しているでしょう。

 

フィリップ・シラー氏は、ARについてこうコメントしています。

 

「ARについては私たちもワクワクしています。まさに新しいアプリケーションの未来ですね。例えば、教育なら絵のように描いたレポートをARで見られるでしょう。また、芸術作品を見たり、インタラクティブなゲームを楽しんだりすることも可能です。ゲームの開発にはまだ時間がかかるかもしれませんが、みなさん楽しみにしているのではないでしょうか」

 

↑ピクサーの「Universal Scene Description」をベースして作られた「USDZ」フォーマットのファイルは、「Quick Look for AR」機能により3Dオブジェクトとして現実世界に配置可能。サイズ感などを確認できる

 

また、「USDZ」というオープンファイルフォーマットが登場したことも大きなポイントです。これはピクサーとAppleが協力して作ったもの。例えば、iPhoneのアプリから、3Dオブジェクトのファイルを起動したり、そのままARでカメラ越しに表示できるわけです。毎年行われているAppleのデベロッパー向けカンファレンス「WWDC 2018」では、Safariのウェブページから、商品の立体映像を確認してARで表示する様子が紹介されていました。

 

「ARは以前から注目されてきましたが、今まで何億人に広く行き渡るような製品は出てこなかったんです。アップルはようやくそれを実現できたと思っています。ウェブサイトで見ている商品がARで目の前に出てくるようになります。誰もが使いたがるのではないでしょうか。」

 

今後注目すべきは、このUSDZファイルを誰もが手軽に作成し、共有できるようになるか、という点でしょう。これについて同氏はこう続けます。

 

「最初のステップとして、Adobeが参画しています。USDZのフォーマットを使って、クリエイティブなユーザーが3Dオブジェクトのファイルを作れるようにしているところです。将来的にはもっと簡単に扱えるようになるのではないかと私は思っています」

 

↑Adobeの「Project Aero」が商品化されれば、Adobe Photoshop CCやDimension CCなどからUSDZファイルを作成できるようになるだろう

 

近い将来、何気なく3DオブジェクトでECサイトの商品を確認するようになったら、その時、「未来がやってきた」と感じるかもしれませんね。新しい端末とともに、ほかにもどんな変化が起こっていくのでしょうか。今から楽しみで仕方ありません。