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2019/3/7 17:00

とにかく21:9に飛ばしたかったーーソニーが新Xperiaで与えたい「体験」、その正体。

モバイルの見本市「MWC19 Barcelona」でソニーモバイルコミュニケーションズが「Xperia 1」を発表しました。本記事では、同ブランドが従来のXperia XZシリーズから大きく方針を転換した理由を探ります。

 

なぜ「1(ワン)」なのか?

既報では詳細をお伝えしませんでしたが、同会期中にはXperiaシリーズから計4モデルが登場しました。フラグシップの「Xperia 1」、ミドルレンジの「Xperia 10/10 Plus」、そして「Xperia L3」です。

 

↑背面を向けている端末について、左からXperia 10、Xperia 1、Xperia 10 Plus。どれもシネマワイドディスプレイをそなえる

 

このなかでXperia 1に注目すべきなのは、同社が日本発売を確約しているから。しかし、そのナンバリングが気になります。なぜ「1」なのか——。

 

ソニーモバイルコミュニケーションズの商品企画部門 部門長の田嶋知一氏は、次のような旨を語りました。

 

↑田嶋知一さん。2006年からモバイルビジネスに携わり、2008年から東京およびスウェーデンで同社の初期AndroidのUXデザインを作るプロジェクトを率いる。Xperiaと10年を共に歩んできた人物だ

 

田島氏 イチから始まるXperia 1、イチから生まれ変わるXperia 1ーー、という想いを込めて発表しました。フラグシップを1、ミッドレンジを10として、この間が僕らの戦うコアのゾーンと宣言し、そこでキーとなる商品をいくつか展開してシリーズ化していこうと。そう考えて、このネーミングにしました。

 

ナンバリングのルールがどうなるのか気になりますね。次期モデルが出できたときには、きっと明らかになるでしょう。

「シネスコ」比率に込めたソニーの想いは——

Xperia 1のディスプレイは、4K相当の有機ELディスプレイが搭載されており、そのアスペクト比はシネマスコープに近い「21:9」となっています。

 

一方で、筐体のデザインはフラットなものに変わりました。これは、従来機のXZ2やXZ3で採用された丸みを帯びたものよりも、むしろかつてのXperia Zシリーズを思い出させるものです。

 

 

田島氏 議論を重ねた結果、「好きを極めたい人々に、想像を超えたエクスペリエンスを」というところに行き着きました。これはビジョンというか宣言ですね。そのためには、突き抜けた、尖った商品と体験を提供しなくてはなりません——。

 

数億人の手に届くような最大手メーカーのスマートフォンとは違う戦略をとらなければならないとした上で、同氏はこう続けます。

 

田島氏 ソニーの得意なところで勝負しなくてはいけないと思いました。コンテンツをやりとりすることでユーザーとクリエイターがつながる。ソニーはコンテンツを作る技術や、楽しむ技術、そしてコンテンツそのものを持っている会社です。今回は、その「体験」をもたらすことに注力しようと。開発はそのようにスタートしました。そしてたどり着いたのが「21:9のシネマワイド体験」。あえてディスプレイとは言いません。

 

スマホのディスプレイの比率は、かつての4:3から16:9へと変わり、ここ数年はさらに縦長化が進んでいます。その中で、Xperiaは「とにかく21:9に飛ばしたかった」とのこと。確かに突き抜けていますし、かといって一般ユーザーの使い方を置き去りにしているわけでもない。良い落としどころだと感じます。

 

フラットなデザインへの回帰や、指紋センサーの位置についても、「シネマワイドの体験を突き詰めると、この形がベストだった」との旨を同氏は述べています。

改めて「技術」を大事に。

しかし、なぜイチから見直すという方向転換を意識することになったのか——。やはり、その大きな要因は昨今のXperiaシリーズが伸び悩んでいたという現実があるのでしょう。

 

田島氏 XZでは市場を読み違えました。ユーザーは手頃な価格で、必要なエッセンスが入ったものを求めるようになるんじゃないかと思ったのですが、市場はテクノロジーイノベーションドリブンの流れで進んでいった。ユーザーもそっちについていきました。

実際、Xperia 1の開発には、ソニーグループ中のエンジニアを総動員したといいます。その中には、αシリーズ、ブラビア、オーディオ機器はもちろん、プロ用の撮影機器・モニター機器のエッセンスまでが全て含まれます。ソニーブランドを支える開発力をかき集めているのです。

 

ディスプレイの画質を向上させる「クリエイターモード」や、「瞳AF」「Cinema Pro」といった本格派を意識した機能はこうした背景で取り入れられています。プレゼンで強調された理由が理解できます。

 

田島氏 やはり競合他社は気になります。ソニーしかないユニークな価値をださなければ僕らに存在以外はない、危機感からそう考えました。同時に、ソニーというのはエンターテインメントを楽しんでいただくポジティブなブランドじゃないかと見つめ直しました。「1」を付けたからには、一番良い最高の製品にしたかったのです。

 

Xperia 1は尖りすぎているのか?

MWC19 Barcelonaのキーワードは明らかに「5G Ready」でした。世界中のメーカーが5G対応のチップセットとモデムを搭載した端末をこぞって展示。サービスが開始されたら次世代高速通信がすぐ使えるぞ、というわけです。

 

その裏でハードウェアとしてワクワクするスマートフォンも、たくさん登場しました。例えば、「Galaxy Fold」や「HUAWEI Mate X」のような画面を折りたたむ「フォルダブル」というジャンル。会場に触れる実機の展示はなかったものの、こうしたモデルがユーザー体験をガラリと変えうるということは、誰もが感じられるでしょう。

 

しかし、5Gが始まって何を楽しむか、画面が折りたためて何を楽しむか、という具体的な魅力については、まだまだ定まっていない気がします。そんな中で、Xperia 1は「映画サイズのコンテンツを黒帯なしで表示でき、さらに映画サイズで動画を撮れる」というゴリゴリに尖った選択をしてきました。今の日本市場に登場するなら、現実的なメリットのある良い落としどころだと言えます。

 

将来国内に5Gが導入された頃には、映画コンテンツのダウンロードスピードはより速くなります。Xperia 1で用意された“シネマワイドな体験”は、次のモデルで活躍する下地にもなりそうです。もしかすると、ある意味、一番5Gを見据えたモデルなのかもしれません。

 

また、あらためて今年のXperiaは開発陣の想いが見えるからこそ、面白いと思える端末でした。そんなソニー渾身の一台、改めて初夏以降の登場を待ち遠しく思います。