スマートフォンやBluetoothスピーカー、デジタルカメラなどのスペックとして、「NFC対応」がうたわれている製品が増えています。この「NFC」とは、いったい何をするための機能なのでしょうか?
なんとなく、無線通信の話をしている……というのは理解できても、具体的にどういうことなのか分からない人も多いでしょう。今回の記事では、NFCについてはもちろん、それと混同されやすい「FeliCa」についても、解説します。
そもそも「NFC」とは?
NFCとはNear Field Communicationの略で、日本語では「近距離無線通信」などと呼ばれています。その名の通り、2つの機器の間で無線通信をするための規格です。近距離といっても、メートル単位のような距離ではなく、10cm程度、実際には「軽く触れる」くらいに近づける距離のことを指します。
そのようにして使う機器といえば、「Suica」や「おサイフケータイ」を思い浮かべる人もいるかもしれません。実はそれらもNFCの仲間で、用途も似ています。
まずは、NFCでなにができるのかを紹介しましょう。
2大用途は「認証」と「通信」
NFCの用途は、大きくわけて2つ。「認証」と「通信」です。
現在、NFCの用途としてもっとも多いのが「認証」。簡単にいえば、パスワード入力の代わりに使うということです。たとえば、スマホの曲をBluetoothスピーカーから流したいとき。従来は「ペアリング」という作業が必要で、場合によってはパスコードという暗証番号も入力しなければなりません。これは他人が勝手に曲を傍受しないためのものですが、わずらわしい作業でもあります。
このとき、スマホとBluetoothスピーカーの両方がNFCを搭載していれば、スマホのNFCマークをBluetoothスピーカーにのNFCマークにタッチするだけでペアリングが完了し、曲を流せるようになるのです。
最近はWi-Fi内蔵のデジカメが増え、スマホにWi-Fi接続することで、写真を送ったりリモート操作したりできます。このとき、Wi-Fi接続の設定や暗号化キーの入力が必要ですが、これもNFCを使えば、スマホをデジカメにタッチするだけで接続が完了するのです。
上の2つの例では、NFCは「認証」のためだけに使い、データ通信、つまり曲や写真の転送自体はBluetoothやWi-Fiで行なっています。しかしNFCは、認証だけでなくデータ通信にも使うことができます。その代表的な例が、「Android Beam」。NFCを搭載したAndrod端末同士を近づけることで、データの送受信ができます。目の前にいる相手に写真を渡したり、連絡先を交換したりするのに便利です。従来の「赤外線通信」の代わりにもなる使い方といえるでしょう。
NFCの用途として、ほかには「決済」もあります。これは、たとえばiPhone 6で搭載された「Apple Pay」がその例です。まだ日本ではサービス開始されていませんが、レジの決済端末にiPhoneをかざすだけで、支払いができるようになるわけです。
「もうひとつのNFC」とNFCの現在
ここまでNFCの役割や機能について解説してきましたが、最後に別の話をしておきましょう。上で「似ている」と述べた、おサイフケータイやSuicaなどの交通系ICカードなどで用いられる「FeliCa」とNFCの関係性についてです。
そもそも、NFCには複数の細かい規格がありました。フィリップス社(現:NXPセミコンダクターズ社)の開発した「Type A」や、モトローラ社の開発した「Type B」、さらにはソニーが開発した「FeliCa」といったものがそれにあたります。つまり、「FeliCa」はあくまでNFCのうちのひとつの規格に過ぎませんでした。
このままなら、FeliCaとNFCの関係は非常に単純でした。しかし、この単純であったはずの関係が、いまややこしくなってしまっています。その原因は、NFCの語義が「近距離での無線通信規格全般」以外にもうひとつ存在してしまっているためです。詳しく説明していきましょう。
交通系ICカードや、おサイフケータイに使われていると紹介した「FeliCa」ですが、実は海外ではほとんど使われていません。海外で主流の規格は「Type A」と「Type B」。日本でも、「Type A」はタバコを自販機で購入する際に使う「taspo」などに、「Type B」は住民基本台帳カードやパスポートなどに使われています。しかし、「FeliCa」が「Suica」をはじめとする交通系ICカードや、「WAON」や「nanaco」などのポイントカード、さらにはおサイフケータイにも使われたため、これら2つは主流となるに至りませんでした。そこで、「Type A」や「Type B」を「FeliCa」から区別するために「日本以外の国で標準的に使われているNFCの規格」のことを「NFC」と呼称する例が出てきました。これが、「もうひとつのNFC」の正体です。
雑誌などの記事でも、「NFC」と書かれていれば「日本以外の国で標準的に使われているNFCの規格」=「FeliCaではないほうの規格」を指すことが多くなりました。たとえば「このスマホはFeliCaを搭載しているが、NFCには非対応」といった表現をしていれば、この定義を採用していることになります。
また、この規格の違いにより、日本の製品と海外の製品は互いに通信することができないという状況が生まれました。しかし、それでは不便なので、ソニーとフィリップス(当時)が共同で、「Felica」でも「NFC」でも両方で利用できる規格を開発。この“FeliCa・NFC互換規格”は2013年頃からさまざまな製品に搭載されるようになっています。そのため、現在「NFC対応」と言えば、日本でも海外でも通用する製品を指すのです。
あなたが持っている「NFC対応」機器は、2013年より前のものですか? それとも後のものですか? 2013年以前のものなら、その「NFC」は“いまのNFC”とは、実は異なったものかもしれません。