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2019/5/15 7:00

【西田宗千佳連載】「おトク感」以外をいかに打ち出すかがSTADIAの課題

Vol.78-4

STADIAの利点は「クラウドゲーミング」の利点、と言い換えることができる。すなわち「安く」「早く「手軽」。消費者にとっていいことづくしに見える。

↑Google「STADIA」

 

だが、世の中そんなに甘くはない。なぜなら「安く」「早く「手軽」は、クラウドゲーミングの失敗の歴史とも重なるからである。

 

クラウドゲーミングは10年ほど前から研究が始まり、2010年代前半には一度目のブームを迎えた。現在、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが展開中の「PlayStation Now」は2015年にサービスを開始し、すでに4年の実績を持つ。だが、ユーザー数は全世界で70万人程度とされており、大ヒットとは言い難い。そして、この「70万人」が、現状では世界最大のクラウドゲーミング・コミュニティである。

 

なぜうまくいっていないのか? ゲームのラインナップやプロモーションの問題も大きいのだが、おそらく一番の課題は「安く・早く・手軽以上の価値が打ち出せていない」ことだ。確かに、それらの「インスタント性」は大きな魅力だが、わざわざゲームにお金を払おうと考えるゲームファンにとっては、インスタントなものであることは「二の次」だ。そこでしか得られない体験、そこでしか得られないメリットがないと、ゲーマーはついてきてくれないのだ。

 

そういう意味では、「チートがない」という点は大きな価値かもしれない。だが、GoogleはSTADIAのビジネスモデルについて、ほとんどなにも語っていない。

 

インスタント性以上の魅力があるのか? そこでしか楽しめないゲームの存在や、そこでしか生まれ得ないゲームコミュニティの存在はどうなのか?

 

そういう部分が見えてこないと、STADIAが有利か否かは、まったく判断できないのである。

 

さらに重要なことがある。クラウドゲーミングを考えているのはGoogleだけではない。ソニーも「PlayStation Now」を、次世代プレイステーションに合わせて拡張してくるだろう。マイクロソフトは「Project xCloud」というクラウドゲーミングを2019年中にテスト公開することを明言しており、これも、Xboxプラットフォームとの連携が考えられる。そうした既存プラットフォーマーのクラウドゲーミングとの差別化ポイントは、それぞれの企業がサービスについてのカードをすべて見せるまで、判断がつかないのである。ゲームとクラウドは別の市場だ。世界最大のクラウド事業者だからといって、Googleが勝つとは限らない。

 

ここから各社は、有利な情報・自社にしかない要素をいつ表に出すのか、という判断を強いられる。それに対する反響によって、この種のビジネスの勝敗は大きく影響を受けるだろう。

 

ともかく、STADIAの成否自体については「まだ、なにも判断できない」というのが、少なくとも2019年5月段階では妥当な答えになるのである。

 

●次回Vol.79-1は「ゲットナビ」7月号(5月24日発売)に掲載されます。

 

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