Vol.79-1
手軽に本格的VR体験が得られるQuest
Facebookは、新しいVR機器である「Oculus Quest」を、5月21日から出荷する。出荷地域には日本も含まれており、5月1日から予約販売が開始された。
Facebook傘下のOculusはVRのトップランナーの1社。PCと接続して使用する「Oculus Rift」で市場を拓き、昨年には低価格なスタンドアローンVR機器「Oculus Go」でスマッシュヒットを記録した。Oculus Questは、PC向けの「Rift」とシンプルな「Go」の間に位置する製品。VRとしての体験は本格的だが、高性能なPCとの接続は不要であり、ヘッドセットをかぶればすぐにVRが体験できる。
Oculus GoとQuestの最大の違いは、両手を認識するハンドコントローラーがあること、そして、頭の向きだけでなく、位置や高さまで認識することだ。Goは2万3800円からと安いが、コントローラーは片手だけのシンプルなもので、頭の方向しか認識できない。Questは4万9800円からで、グッと高価になるものの、向いている方向から「移動」まで、自分の動きを認識してVRに反映してくれる。これは、つまり本格的なVRを実現するために必要な要素をしっかり備えているということ。それでいて、ケーブルもないので、体験の質も良い。
とはいえ、もちろん限界はある。PCやゲーム機と接続して使う本格的なVR機器は、接続先の機器側にあるリッチな演算能力を使えるため、VRの中身を凝ったものにできる。だがQuestはヘッドセット内に処理系があるため、さほど高速な処理を望めない。プロセッサとしては、クアルコムのSnapdragon 835を使っているのだが、要は「2018年のハイエンドスマホ」レベルの性能だということ。だから、実現可能な画像の質やソフトの規模にはどうしても制限が生じる。PCのVRが不要になるというわけではないのだ。
だが、市場規模的には、明らかに、お手軽なQuestのほうが大きくなる可能性が高い。「PCのVRよりずっとトータルコストが低い」「PCのVRよりずっと簡単」「でも体験の質はPCにある程度近い」というバランスが、Questの美点だ。そんなQuestを、Oculusはどのような存在として売り込もうとしているのか? それは明確に「ゲーム機」である。昨年秋、Questが発表された時に公開されたプロモーションビデオでは、1970年代からいままでのゲームを振り返り、最新のものがQuestによるVRゲームである……という描き方をしていた。確かに、VRの明確な用途として市場が確立しているのはゲームだし、ゲームならば製品説明も容易になる。
ソフトは独自ストアを使ったオンライン配信だが、配信するには「企画書を伴った内容を含めた審査」が必要で、スマホのアプリストアに比べ、ずっとハードルが高い。家庭用ゲーム機のソフト販売に近いモデルだ。これは、ソフトの数よりも質を重視した展開である。
では、「ゲーム機としてのVR」の成功の可能性はどうか? ゲーム以外の価値はどうなるのか? そうした部分は次回Vol.79-2で考察していく。
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