Vol.79-2
Oculus Questは、PCなどとの接続を必要としないVRデバイスだ。そして、ハンドコントローラーも採用しており、両手の動きをかなり正確に取り込むことができる。そのうえ、頭の向きだけでなく、自分がいる場所や方向を把握する「6DoF」という要素も実現している。
ハンドコントローラーや6DoFといった要素は、VRでの「現実感」や「没入感」を高めるのに必要だ。手でなにかを持ったり、手で触れたりすることは、CGの物体に「本当にそこにある」と感じさせる要素を付け加えるために役立つ。また、6DoFによって周囲を動き回れるようになると、その結果、やはり、VR空間の「そこにいる」感じを高めることに繋がる。
それだけではない。Oculus Questには、VR中の安全性に配慮して、「ガーディアン」と呼ばれる機能が搭載されている。この機能は、自分であらかじめ「VRで遊ぶ場所」を設定しておくことで、自分が動いてその範囲を超えてしまった時、映像を「現実世界の白黒映像」に自動で切り換えてくれるものだ。これによって、「夢中で遊んでいたら家具にぶつかってしまった」とか、「飲み物を取りに行きたい時など、いちいちHMDをはずす必要があって面倒くさい」といった問題が解決される。
これらの要素は、なにもOculus Questで初めて実現されたものではない。様々なVR機器で「改善要素」として逐次導入されてきたものであり、最新のVR事情を追いかけている人にとっては物珍しい要素ではない。
だが、ほとんどの人は、まだまだ最新のVR技術を知らないし、体験してもいない。Oculus Questの良いところは、そうした「VR開発の最前線で得られている知見」をうまく低コストな機器に導入し、一体化した体験として提示できていることにある。
ところで、こうした機器では、初めて電源を入れた時に「セットアップ」と「チュートリアル」が始まるのが常だ。その体験が非常によくまとめられているところもQuestの見逃せないポイントのひとつ。ガーディアンがどのようなものかを学び、安全に遊べる場所を簡単に決め、さらにハンドコントローラーを使って「VRの中のものを掴んだり投げたりできる」ことを理解する。一般的なメニューやアプリに触れるのはそれから。このチュートリアルをやる30分ほどの間に、最新のVRではなにができるようになっているか、そして、Questではどのように体験できるのかを、シームレスに組み立てている。こうした部分の完成度はすばらしく高い。
そもそも家庭用ゲーム機は、PCやスマホよりも幅広い人々が触れるものだ。そのため、「この機械でどんなことができるのか」「この機械で必要になる設定はなにか」といったことを、手触りの良いチュートリアルにまとめ、誰もが使えるようにする必要がある。
Questは、いままでのゲーム機よりも複雑で新しいことをさせる機器だ。にもかかわらず、「最初の体験」をうまくコントロールしているので、ゲーム機と同じようにスムーズに、新しい体験を理解することができるようになっている。
少し前まで、Oculusは、いかにも「ハードビジネスの経験が浅い新興企業」らしい拙さをもっていた。だが、Questは、それが過去のことであることを感じさせる。彼らは本気で、Questを「新世代のゲーム機」として売りだそうとしている。
では、それは成功するのか? なぜそういう戦略を採っているのか? その点は次回のVol.79-3で解説する。
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