「ヌルヌル動画」という言葉を聞いたことがあるだろうか? ジンバル(スタビライザー)を使用したスムーズに流れるような移動映像を表現した言葉である。それをスマートフォンのカメラで手軽に撮影できてしまうのが、今、ガジェット好きの間で話題沸騰中のアイテム「Osmo Mobile 3」だ。
持ち運びが便利になったシリーズ三代目モデル
かつて動画のスタビライズといえば、カウンターウェイトを取り付けてやじろべえのようにバランスをとる機械的なもので、設定も操作も非常に難しかった。 DJIがドローンでの空撮技術を応用して電動ジンバルを開発、2015年に登場したのが初代OSMO。4Kカメラ一体型でスマートフォンと連動して様々な表現が可能であった。そして2016年にスマートフォンのカメラを利用する「Osmo Mobile」が登場。本製品はその三代目ということになる。
ユーザーのニーズを反映し進化して続けているOSMOシリーズ。今回の一番大きな進化が、アームを折り畳めるようになったこと。折り畳んだ状態で157×130×46 mm。本体重量は405gでOsmo Mobile 2から80g軽量化されている。このサイズ/重量であればちょっとした鞄の隙間に入れて持ち歩ける。
さらに、価格が手頃になったことも見逃せない。DJIストアの直販価格は、本体のみのスタンダード版が税込1万3500円、グリップ式三脚とキャリーケースが同梱されるコンボが税込1万5660円となっている。「小型」「軽量」「安価」ということで、ターゲットユーザーをライト層まで広げてきた印象だ。
Osmo Mobile 3の基本的な操作方法
今日スマートフォンでの動画撮影は誰もが日常的に行っており、特に若い世代ではスマートフォンをそのまま持った縦動画の撮影が当たり前になっている。 Osmo Mobile 3は電源を入れるとまずはこのポートレートモード(縦位置)で起動するのだ。ただし単に購入して電源を入れただけではジンバルは動作しない。まず使用する前に専用スマホアプリ「DJI Mimo」をダウンロードしてアクティベーション作業が必要となる。この作業がライトユーザーにはちょっとわかりづらいかもしれないので注意が必要だ。
では改めて起動の手順をご紹介しよう。 まずはホルダーにスマートフォンを挟み、アームを手動で展開する。その際、スマートフォンはある程度左右のバランスがとれる位置に固定すること。そうしないとジンバルへの負担が大きくなってしまう。
続いて、専用アプリ「DJI Mimo」を立ち上げ、本体の電源ボタン(Mボタン)を長押しすればククッと起動する。この状態でMボタンをポンポンっと2度押すとランドスケープモード(横位置)へ切り換えできる。従来からのユーザーからすると使用するまでにひと手間多くかかってしまうことになるが、現時点では初期起動位置を変更することはできない。ポートレートモードに戻すには同じ様にMボタンを2度押しだ。
ほとんどの操作はスマートフォンの画面をタッチせずに、手元のボタン類でできてしまう。さらに人差し指のトリガーボタンとのコンビネーションで各種モード変更や設定なども可能。ズームだけは、左利きの人にはちょっと使いづらそうだ。デフォルトではMボタンを押すと写真と動画のモードが切り替わる。これは設定を変更して撮影メニューを開くこともでき、Osmo Pocketと同じような感覚で操作できるようになる。個人的には後者のほうが使いやすかった。
実際に撮影してみた
では実際に撮影した映像を見てみよう。基本的に使用するのは「パンフォローモード」で、移動しながら撮影するような場合も多くはこのモードだ。 まずは歩いたり走ったりしてみた。今回はライトユーザーを意識して普通に歩いたり走ったりしてみたが、実際は狂言師のようにソロリソロリと歩くのが理想的である。
手ブレは大幅に軽減され、水平もまっすぐ出ている。ただし上下動はやや気になる。これはスマートフォンのカメラ性能も大きく影響してくるので、手ブレ補正の強力なスマートフォンであればもっと良好な結果になったのかもしれないが、どうやらそれだけの問題ではなさそうだ。アームが折り畳めるようになった弊害で、チルト方向(上下方向)の可動範囲がとても狭くなってしまっている。そのため縦ブレを軽減するようにグリップを斜めに持つようなテクニックが使いづらく、上下動がそのままカメラ部に伝わってしまう感じだ。
カメラの向きを固定したい場合に使用するのが「ロックモード」。 固定したい向きでトリガーを引きっぱなしにするとロックできる。カメラスライダーで横移動するようなシーンや、クレーンショットなどで使用すると効果的だ。ズーム機能と併用しながら前後に移動すればドリーズームのような撮影も可能。だが実際試してみるとなかなか難しかった。またズームはデジタルズームのみの対応となっており、そのまま使用するとだんだん荒い映像になってしまう。
電動ジンバルは手ブレを抑えるという使い方だけではなく、三脚とビデオ雲台を使用したような滑らかなパン操作も可能だ。スポーツモードは素早い動きの被写体を追いかける際などに有効。走り回っているお子さんやペットなどを撮影するときにも使えそうだ。
ワンプッシュアクティブトラックをオンにすると、トリガーを1回引くだけでActiveTrackを設定できる。画像処理で設定した被写体を自動追従し中央に捉え続けてくれるので、被写体を回り込んでぐるっと撮影する場合などに効果を発揮する。
トリガーを3回引くとインカメラに切り替わり、自撮りモードになる。当然このときの画質や画角もスマートフォンによって変わってくる。アウトカメラよりもインカメラの性能が劣っている場合が多いので、画質が変わってしまう可能性もある。
撮影にスマートフォンを使うメリットとしては、クリップ式のワイドレンズやLEDライトなどのアクセサリー類を使えることが挙げられる。とはいえあまり重くなってしまうとジンバルに負担がかかってしまうのと、左右の重量バランスに注意が必要だ(対応スマートフォン重量は170〜230g)。また従来のようにスマートフォン底面が塞がれていないので、USBケーブルで充電しながらの撮影や、外部マイクの接続も容易になった。
さらに特殊な撮影としてタイムラプスにも対応。カメラを固定して撮影する通常のタイムラプスだけでなく、電動ジンバルを活かして複数地点間を指定時間で自動的にパンする「モーションタイムラプス」も撮影可能。さらに滑るように高速移動しているような「ハイパーラプス」撮影もでき、作品作りのアクセントやアーカイブ映像などに活用できそうだ。
また電動ジンバルを活かした撮影としてはパノラマ写真もある。水平方向に4枚撮影して1枚に合成する180度モードと、上下左右の9枚を撮影してワイドアングルに合成する3×3モードの2種類があり、シャッターを押すとジンバルが自動で首を振って撮影し、合成までしてくれる。
さらにOsmo Mobile 3では、Osmo Pocketでスマートフォンを連動させることで撮影できた「Story」モードも楽しめる。用意されたプリセットからお好みのシーンを選び、指定された秒数の数カットを撮影すれば自動的にかっこいいエフェクトとBGM付きで編集してくれる。これはまさにライトユーザー向けな機能だろう。
万能ではないがコストパフォーマンスはかなり良い
今までいろいろなスマートフォン用電動ジンバルを使用してみたが、そのなかでもコストパフォーマンスはかなり良いと感じた。ただし万能ではない。やはり折り畳み機構によって可動範囲が狭くなったのが悩ましいところだ。普通に使用しているぶんにはさほど気にならないのかもしれないが、ローアングル撮影やクレーンショットなどが非常に難しい。
それと撮影機能はOsmo Pocketとほぼ同等なので、同機のユーザーであれば新たに買い足す意味はあまりないと感じた。今までスマートフォン中心で撮影をしてきた人が、機能を拡張する目的で導入するといった利用法だと思っていいだろう。
折り畳み可能なコンパクトな電動ジンバルはほかにもあるが、専用アプリとの連携で表現の幅が広がるのは撮影していても楽しい。写真も動画もスマートフォンのカメラしか使わないという世代にも、手軽な電動ジンバルの利用が広まっていくのかもしれない。