デジタル
2020/2/23 7:00

【西田宗千佳連載】8Kテレビはまだまだ手が届かない「特別な存在」

Vol.88-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「2020年のテレビ市場」。なかでも製品が登場しはじめた8Kテレビの動向と、各社の戦略を紐解く。

 

すでに4Kテレビはメインストリームに

現在、テレビの主流は「4K」だ。4Kがメインストリームであることに関しては、今年も含めて当面変化はないだろう。いまだに、すべてのコンテンツが4Kになっているというわけではないが、「リビングに置かれる、一定以上のサイズを有したディスプレイ」を現在のテレビと定義するなら、すでに「4Kはスタンダードである」といって間違いはないだろう。

 

では8Kはどういう扱いになるのだろう? 日本では8K放送が日常的に行われており、先日開催されたCESでも「8K」の文字はどのテレビメーカーのブースにも存在していた。ならば、今後は4Kに代わって8Kがメインを担っていく……と考えてもよさそうなものだ。

 

だが現状、テレビメーカー、特に日本のメーカーは、8Kテレビを「大量投入」することに対して及び腰だ。最も積極的なメーカーであるシャープはともかく、ソニーがようやく8Kの「ブラビア Z9H」を日本市場へ投入した程度。「商品化を前提に開発はしたが、いつどういう形で市場に出すかは検討中」と語るメーカーもいる。

 

なぜメーカーは8Kに対して及び腰になるのか? その最大の難点は「サイズと解像感のバランス」にある。

実際、8Kの解像感は素晴らしい。4Kの画質もすごいが、8Kで作られたコンテンツを8Kのテレビで見ると、そのリアリティには圧倒的なものがある。8Kと4Kの間には、2K(フルHD)と4Kの間以上の大きな「なにか」があるのは間違いない、と筆者も思う。

 

一方で、現状の8Kには「サイズ」の制約がある。8Kの解像感を体験するには、ディスプレイにそれなりのサイズが必要なのだ。正確には、「自分の目に見えるドットのサイズ感」が重要なのだが、それを考えると、「8Kの場合、リビングに置くなら、最低でも55インチ、できれば70インチオーバーが望ましい」というのが、テレビメーカー側の見解である。

ソニー ブラビア Z9H

 

テレビの大型化が進む日本だが8Kは時期尚早

日本のテレビ市場も大型化が進んでおり、50V型前後が売れ筋となっている。薄型・狭額縁になって、壁寄せ・壁掛けに近い形になり、部屋を広く使えるようになった影響は大きい。テレビメーカーも、積極的に壁寄せスタンドとのセット売りを進めている。このことは、4Kテレビにとって追い風だ。

 

だが、それよりもさらに大きなサイズが中心となっている8Kは、一般家庭にはまだまだハードルが高すぎる。そうすると現状では、無理に小型・低価格の8K製品を作るよりも、70インチ以上のテレビが設置できる富裕層の家庭に向けて、「特別な製品」として訴求するのが現実的、ということになる。

 

ソニーの「ブラビア Z9H」はまさにそういう製品だ。過去のブラビアシリーズのなかでも圧倒的に高画質であり、8K放送が他社テレビと比較してもさらに美しく見える。一方で、「85V型で220万円」というテレビを「置ける環境」があることが前提となった、特別な製品になっている。

 

では、8K以外の今年の「特別でないテレビ」のトレンドはどうなっているのか? そこはウェブ版で解説していきたい。

 

 

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