Vol.91-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「次世代ゲーム機」。徐々に姿を現しつつある新型ゲーム機に共通する“次なるトレンド”とは何なのか?
今年の年末に発売を予定しているのはPlayStation 5(PS5)だけではない。マイクロソフトも新型機であるXbox Series Xの投入を準備中だ。
PS4とXbox Oneがそうであったように、PS5とXbox Series Xは共にAMDの開発したプロセッサーを採用する。そのため、ごく基本的な方向性として、両者は似たものになる。いまのゲーム機より高度なCPUとGPUを搭載し、ストレージを「SSD」が変更される。こうした点はどちらも同じだ。
ただ、ソニーとマイクロソフトでは、それぞれが見ている方向が少し違う。結果として、両社はともにAMDをパートナーとしつつも、違う製品を開発し、プラットフォームとしての独自性を追求しようとしている。
同じアーキテクチャを使ってはいるが、CPUクロックやGPUのCU(演算ユニット)数といった「スペック」では、PS5とXbox Series Xは異なっている。発表されている情報から推測する限り、これらの性能はXbox Series Xのほうが高くなるようだ。一方で、PS5はCPU&GPU性能ではXbox Series Xに一歩劣るものの、SSDの最大読み込み速度や実効速度を維持する仕組みでは、ライバルに大きな差をつけている。
前回、解説したように、ロード時間を短縮することはゲーム開発の制約を小さくすることにつながる。特に次世代のゲーム機は、「ゲームを動かしつつ、動的に必要な情報だけを素早く読み込む」形を採ることで、「メインメモリ量」の制約まで軽くしようとしている。
PS5がこうした設計思想を採る理由となったのが、ゲーム開発に使われる重要なソフト環境「ゲームエンジン」の存在だ。有力なゲームエンジンの一つである「Unreal Engine」開発元のEpic Gamesは、先日、最新版となる「Unreal Engine 5(UE5)」のデモ映像を公開した。「PS5の実機で動かした」という触れ込みの映像で、そのクオリティは「凄い」の一言だ。
ゲームでは「映画のような」という表現が使われることが多いが、その映像は、まさにそんな言葉にふさわしいほど高画質。しかし、次世代ゲームエンジンの美点は、ただ画質が優れているというだけではない。真に評価すべきは、「ゲーム向けにコンパクト化したモデルデータやテクスチャデータを使わなくていい」という部分にある。
映画や広告などでは非常にクオリティの高いCGモデルとテクスチャーが使われるが、それらはロード時間もかかるしメモリにも入りきらないうえ、描画も難しい。そこで従来は、ゲーム内専用にディテールを省略したデータを作り、それを使用していたのだ。
しかしUE5では、映画用データをそのまま読み込み、ユーザーの操作に合わせて「その場で最適な形のデータ」に変えながら使うことができる。この結果、ゲーム開発にかかる手間が大幅に削減できるというわけだ。
では、そこにPS5を組み合わせるとどうなるのか? PS5は、読み込み速度がとても速いので、「一時的に使うモデルやテクスチャーのデータ」の精度や解像感をさらに高められるのだ。結果、表示されるCGのクオリティは、「ゲーム専用モデルを作っていた時代」とは大きく違うものになる……。これが、 UE5を「PS5の実機」でデモした理由だ。
UE5のようなツールを使うとPS5最適化が簡単になるのは間違いない。そうすると問題は、PS5と他のハードでどのくらい差が出るのか、ということだ。UE5でPS5と同じゲームをXbox Series XやゲーミングPCに移植した場合、「見た目にもわかりやすい違い」となって表れてしまうのか、それとも「あまり目立つことはない」のか。ある程度の差が生じるのは間違いないだろうが、実際どの程度になるかは、まだわからない。ともあれ、その差が大きければ大きいほど、PS5にとっては有利である。
では、Xbox Series Xにとって現状は不利しかないのだろうか?
実はちょっと違う。そのあたりを理解するには、ゲーム機というより「プラットフォーム」としての考え方に枠を広げる必要がある。それがどんなものなのかは、次回のウェブ版で解説しよう。
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