Vol.94-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、テレビ市場。コロナ禍のなかで販売好調を記録しているテレビ─その背景に存在する理由はなにか?
新型コロナウィルスの影響であらゆる産業が影響を受けるなか、家電業界もまた大きなダメージを受けた。人やモノの移動が阻害された結果、製造や開発のスピードが落ち、一部の製品は売れ行きが悪化した。一方で、「回復に数年は必要」と見られている映画産業や音楽産業に比べると、その影響は一時的なものに収まりそうな気配がある。もちろん、コロナの影響下で売れる家電・売れない家電はあるのだが、テレワークや安全に配慮した流通など、状況に配慮した体制への移行がほぼ完了し、「売れ行きが好調な製品」にフォーカスする形で販売が急速に回復している。
テレビはその最たるものだ。いわゆる「巣ごもり」需要に合っていた、ということもあるのだが、これを後押しをしているのは2つの要因、正確には「2つの要素と1つの機能」と言える。
その2つの要素とは「大型化」と「高画質化」だ。
前提として、テレビの買い替えはおおむね10年サイクルで起きることを知っておきたい。日本の場合、2011年の「地デジ移行」により多くの家庭で一斉に買い替えが進んだ結果、次の買い替え時期もまとめてやってきた。それがいまの時期というわけだ。
10年前といまのテレビの大きな違いは「大型化」「高画質化」が進展しているということ。10年前なら40V型でも相当な大画面だったが、薄型化と大型化が同時に進んだことで、同じスペースに50V型クラスのテレビを置けるようになっており、40V型はすっかり「小さなテレビ」になってしまった。
特に現在は、都市部と地方でテレビの売れ筋が変わってきている。大型化したと言っても、都市部のマンションのリビングにおけるテレビのサイズには限界があり、60V型を超える製品は売れづらい。そこを狙って登場したのが「48V型の有機EL テレビ」だ。ソニーの「BRAVIA A9S」や東芝の「REGZA 48X9400」がそれにあたる。有機ELは欲しいけどサイズが55V型以上だと大きすぎる……と思っていた層に、48V型を提供することで対応したわけだ。
一方、地方向けには、実は有機ELよりも液晶が戦略商品である。戸建ての家庭が多く、スペースに余裕があることもあってか、「同じ価格ならより大きな製品を」という意向も強い。そうすると有機ELよりも液晶が有利。日本のテレビは、「20万円」が1つの基準になっている。20万円で65V型が視野に入る4K液晶テレビは、「家族2人分の定額給付金で買えるちょうどいいテレビ」でもあったわけだ。
実は、48V型の有機ELテレビも、20万円から25万円で売られており、液晶の65V型と同じ価格ゾーンである。
売れる価格帯は同じでありながら、都市部と地方、それぞれのニーズに刺さる製品があり、どちらも品質が高くなっているというのが、現在のテレビの売り方のポイントでもある。
では、テレビが売れる理由の残り1要素とはなにか? それは次回のウェブ版で解説する。
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