Vol.94-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、テレビ市場。コロナ禍のなかで販売好調を記録しているテレビ─その背景に存在する理由はなにか?
数年前と現在とで、日本での映像に関する生活のなかで起きた大きな変化といえば「映像配信サービス」の定着だ。新型コロナウイルスの影響によって外出を自粛した結果、映像配信の利用量は急増した。映像配信は別に珍しいサービスでも新しいサービスでもない。本誌読者の皆さんなら、「もう何年も前から使っている」という人は少なくないだろう。だが、日本全体で言えばまだまだ普及初期の段階であり、コロナによる巣ごもりはその良いきっかけとなっていた。日本は海外に比べレンタルDVDの利用量がなかなか減らず、映像配信サービスの利用も伸び悩んできたが、これをきっかけに「DVDから配信へ」という流れがマスのものになる……と期待する事業者は多い。
複数の映像配信事業者に聞いたが、どの事業者も口を揃えているのが「テレビでの視聴の増加」だ。若者のテレビ離れ、という言葉があるように、スマホやタブレット、PCで映像配信・YouTubeなどを見る場合が多いように思うかもしれないが、実際にはそうでもない。確かにスマホやタブレットから使い始めるのだが、映像配信を見ることに慣れてくると、結局は「大きな画面でリラックスして観たい」と思うようになるものなのだ。日本でも映像配信サービスが物珍しい段階を越え、定着期に入ってきたからこそ、テレビで観たいという人が増えてきた、ということなのだろう。
過去、テレビが売れるときは「放送が変わる時」だった。カラーテレビになる時、衛星放送が始まる時、そして地デジになる時。ある意味「オリンピックがある時」というのも、テレビ放送が積極的に関与し、テレビ放送が盛り上がる時だった、という言い方もできるだろう。
だが今回はそうではない。テレビ放送を見なくなったわけではない。過去VHSやDVDが売れた時と同じように、その位置に「映像配信」が入りこみ、快適に映像配信を視聴するための機器として「最新のテレビ」の存在がクローズアップされた……という流れである、と考えればいいだろうか。
もちろん、映像配信のためだけにテレビを買い替えるのはコストパフォーマンスが悪い。実際、映像配信をテレビで見るだけなら、アマゾンの「Fire TV Stick」に代表されるような、数千円から数万円の機器をテレビに取り付けるほうが安くつくのだが、そのための作業は、IT機器に不慣れな人には難しく見えてしまう。これまではそれが一番のジレンマだった。
そこに「テレビ買い替えの時期」がやってきたことが追い風になった。どうせテレビを買い替えるなら、映像配信に対応しているものを選べばいいからだ。家電量販店で売られる大手の製品なら、映像配信に対応していない製品を探すほうが難しい。
テレビの販売が映像配信の普及を後押しし、映像配信の存在がテレビの買い替えも促進する。そんなうまいサイクルが存在していることが、いまのテレビ市場の好調につながっているのだ。
では、いまのテレビは本当に「すべての人に向けた」ものなのだろうか? 実はそうでもない。まだカバーできていない領域があり、市場の取りこぼしがある。用途によっては、「大手メーカーのテレビを選ぶべきではない」部分もある。
それはどこなのか? その辺は次回のウェブ版で解説しよう。
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