Vol.95-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「モダンPC」。実態のつかみにくい概念だった「モダンPC」が、ついにその姿を現しつつある。
チップメーカーの2巨頭が採るそれぞれのアプローチ
インテルが「第11世代Coreプロセッサー」を発表した。簡単にいえば、現行の「第10世代」よりも大幅な性能向上を果たした、という話である。
とはいえ、「PCの性能が上がるといっても、さほど魅力を感じない。買い替えようと思わない」という人もいるだろう。事実、これまでもPCメーカー各社は「買い替えの必要性をいかに感じてもらうか」ということに腐心してきた。
そこで、第11世代で本格的に取り組まれるのが「ノートPCのさらなるモダン化」である。インテルは第10世代プラットフォーム以降を対象に「Project Athena」という計画を進めてきた。今回、それが正式に「Intel Evoplatform」と命名され、最新のノートPCが備えているべき機能と要素が定義された。そして「それらを満たすPCを開発するなら第11世代Coreプロセッサーの採用が有利ですよ」と、PCメーカーにアピールしつつ、PCメーカーも「Evo」のブランドが付いているのはモダンなPCであることの証ですよ」とアピールできるといった具合に、お互いに利のあるプロジェクトになっている。
では、EvoはいままでのPCとどう違うのか? 簡単に言えば、これはノートPCがスマホに比べて劣っていた部分を改善する取り組みである。スリープからの起動が1秒以下に短縮され、バッテリーで9時間以上動作する。30分以下の充電時間で4時間以上動作する急速充電機能も備える。実のところ、こうした要素は各メーカーの努力ですでに独自で実現済の部分も多い。だが、改めてプラットフォーム側が配慮することにより、多くの要素をまとめて実現できる、ということが重要なのだ。
Evo対応PCは、2020年末に向けて、多くのPCメーカーから発売される。ノートPCの買い替えを検討しているのであれば、Evo対応製品の価格や性能などをチェックしてからのほうが良さそうだ。
一方、モダンなPCを「スマートフォンで実現された要素を取り入れたPC」というふうに定義すると、また別のアプローチも存在する。それは「スマホ向けのプロセッサーを改良し、PC向けに使う」というものだ。
スマートフォン向けプロセッサーのトップベンダーであり、「Snapdragon」の商標でお馴染みのクアルコムは、PC向けに「Snapdragon 8cx」を提供している。9月に入り、同社は性能をアップした「Snapdragon 8cx Gen2」を発表。「競合の第10世代プラットフォームより18%速く、バッテリーが50%長く持つ」と、第2世代プラットフォームのインテルに対する優位性をアピールしている。現在のところ、SnapdragonをはじめとしたARMコアを使ったWindows PCはヒットしていないが、プラットフォーム刷新とマイクロソフトとの関係強化を武器に「モダンなPC」を作ることで、改めてヒットを狙っているわけだ。
ARMコアの採用はMacでも予定されているが、今年以降、x86との戦いは一つの焦点になりそうだ。では、ARMコア採用PCはどこにメリットがあり、今後PCはどこを見て選べば良いのか? そのあたりについてはウェブ版で解説していく。
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