デジタル
2020/11/7 7:00

【西田宗千佳連載】オーディオ以上に「ソフト力」が問われる、スマホ時代のヘッドホンビジネス

Vol.96-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「AirPods Proのアップデート」。毎年恒例のOSアップデートに隠れて起きていた要注目の動きとは?

 

ヘッドホン市場は厳しい競争にさらされている。特にワイヤレスになって以降、市場ではアップル傘下のBeatsや有名オーディオブランドであるボーズのシェアが高く、他の家電メーカー・オーディオメーカーはニッチな状況に置かれている。それでも製品の数が増えているのは、それだけ買う人が多くなり、市場が大きくなっているからだ。

 

ソニーも、ヘッドホンにおいては、日本でのシェアは高いものの欧米だとまだまだ弱い。ただ、比較的好調なブランドではあり、「攻め時」と同社も捉えているようだ。

 

ここ数年、ソニーは完全ワイヤレス型からフラッグシップのノイズキャンセル型まで多くの製品を発売している。そこでの特徴は「スマートフォンに搭載するソフトの側でも機能アップを図る」という点にある。

 

現在、多くの人は音楽をスマホで聴く。スマホにはモーションセンサーがあり、行動分析のためのソフトを走らせる処理能力もある。これにより、スマホの動きから「その人がいまどう行動しているか」を認識できるようになった。結果、「家やオフィスで座っている時」「歩いている時」「電車などの公共交通機関に乗っている時」などを判別し、その時にあったノイズキャンセルと「外音取り込み」を行う機能も搭載可能になっているのだ。

 

ソニーは、こうした仕組みを2017年から採用している。業界内でもかなり先進的な取り組みだったといっていい。ヘッドホンのスマホ連携用にアプリを作るメーカーは昔からあったが、その主軸は「設定変更」。簡単に使ってもらうための仕組みという部分が大きかった。だがソニーはもう少し積極的に考え、スマホを「ヘッドホンの外部脳」的な位置付けとした。こうしたアプリ開発はやはり、スマホ事業を自社に持っているようなところでないとやりづらい部分があり、「オーディオメーカーでありヘッドホンメーカー」であるソニーらしいところだ。

 

同様に、アプリで色々な工夫をしていたのが、Googleやマイクロソフト、Amazonなどである。彼らは音声アシスタント技術を持っており、家電連携など、多彩な方向性を意識していた。そこではやはり、スマホ上のアプリが必須である。

 

 

Apple AirPods Pro/実売価格3万580円

 

ヘッドホンの高度化がヘッドホンだけでは終わらない、という発想は各社に存在しており、一つの明確な方向性ではあった。そこでは、オーディオメーカーとしての知見以上に「ソフトメーカー」としての知見が必要になり、新しい方向性での開発力が必要とされているのだ。ボーズも音響メーカーながら、そうした方向性の追求に積極的だ。

 

とはいうものの、AirPods Proほど大胆な機能アップを仕掛けてきたメーカーは他にない。それは前回解説したように、アップルが「製品のコア技術や連携するOSを基本的に自社開発する」からであり、自社連携優先のビジネスモデルを採るからでもある。他社はなかなか思いつかないことでもあるし、他社にはなかなか「そこまではできない」ことでもある。

 

一方でヘッドホンには、また別の方向性も生まれつつある。それはなにか? その辺は次回のウェブ版で解説したい。

 

 

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