デジタル
2020/12/1 7:00

【西田宗千佳連載】「ミリ波のない5Gスマホ」でも当面は大丈夫

Vol.97-2

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「5G」。2020年の一大トレンドとして注目された5Gだが、実際どうなっているのか。現状と課題を解説する。

 

2020年、日本で発売される5Gスマホについては、基本的に2つの特徴がある。

 

ひとつは「ミリ波対応の機種が少ないこと」。10月にiPhone 12シリーズが発表されたとき、一部では「日本のiPhoneは本物の5G対応端末ではない」という人々がいた。アメリカ版のiPhone 12シリーズは、26GHz以上の周波数帯を使って高速通信を行う「ミリ波」(英語ではmmWave)に対応しているのだが、日本のiPhone 12は非対応だった。ミリ波では電波を広く使って高速通信を行う。そのため「実効速度で数Gbps」といった、いままでにない高速通信を行うには、ミリ波の活用がカギになると言われている。だが、日本のiPhone 12シリーズはそのミリ波に対応していないので「ニセモノ」……という発想だ。

 

その気持ち、わからなくはないが、ちょっと実情には合っていない。実のところ、ミリ波対応のiPhone 12はアメリカ向けにしか出荷されておらず、「アメリカの特殊事情」と言っていい。大手のVerizonがミリ波対応を強く推奨しているので、対応せざるを得なかった……というのが実情だ。

 

なぜ日本も含めたアメリカ以外の国々ではミリ波の活用が少ないのか? それは、電波が届きにくく、基地局の設置や効率的な利用などにまだまだ課題が多いからだ。5Gは4Gに比べ、ただでさえ電波が届きにくく、エリアを充実させるのが大変だ。なかでもミリ波は電波の性質が光に近く、非常に直進性が高くて障害物を回り込みにくい。そのため、「アンテナの前に人が立つと受信感度が下がる」「アンテナ部分を握ると受信感度が下がる」とまで言われるほどだ。一般的な基地局はビルの上などにあるが、ミリ波はその届きにくさゆえに、建物の中やスタジアムの中などでの利用が想定されているものの、まだまだノウハウが不足している。ミリ波を活用する準備は進められてはいるものの、現状ではミリ波よりもまずは「色々なところで5Gが入るようにする」施策のほうが重視されているのだ。先行しているアメリカでも、実際にはミリ波をスマホが掴んでガンガン通信できるという状況には至っていない。

 

というわけで、「ミリ波の対応端末が少ない」ということは、多くの人にとって、いまはさほど問題にならない。ただし、いま買った5Gスマホに対して先々、通信速度面で不満を感じる可能性はある。5Gでは複数の電波を束ねて速度を上げるため、ミリ波は確かに重要なのだ。とはいえ、色々な場所でミリ波が使えるようになり、必須のものと言えるようになるにはまだ2年くらいかかると思われる。なので、「今年買った5Gスマホをとにかくずっと、長く使いたい」という人であれば、ミリ波対応の有無を気にしておいてもいいだろう。ただし、その頃には通信速度はさておき、動作速度のほうで問題が生じそうだが。

 

では、残る1つの特徴はなにか? そこは次回のウェブ版で解説する。

 

 

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら