Vol.98-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「Appleシリコン」。ついに登場した話題のアップル製CPU搭載モデルが一躍好評を博している理由とは。
アップルが自分でプロセッサーを作るのは、「自分たちの製品計画に特化したものを求めている」からだ。プロセッサーの設計は簡単なことではないが、アップルはすでに10年選手であり、iPhoneという、世界でもっとも売れる製品などで多くの経験を積んでいる。
アップルがプロセッサーを作れるなら、他の大企業にもできる、ということでもある。真偽は不明ながら、2020年末には、マイクロソフトが新たに「ARMを使った自社オリジナルプロセッサーを開発する計画がある」との報道が流れた。「Surface Pro X」では「Microsoft SQ」というプロセッサーを搭載しているのだが、これはSnapdragon 8cxを多少カスタマイズしたもので、完全なオリジナルではない。報道を信じるなら、今度は少し違うようだ。
マイクロソフトはノートPC向けだけでなく、サーバー用のプロセッサーもにらんでいるようだ。同じように、クラウドインフラ大手のアマゾン・ウェブサービスは、機械学習用にオリジナルのARM系プロセッサー「Graviton」を開発し、クラウドインフラを求める企業に対して提供している。ハードディスクなどのストレージ事業で知られるウェスタンデジタルは、ストレージをコントロールするためのプロセッサーを、オープンソースのプロセッサーアーキテクチャである「RISC-V」を使って開発している。
過去、オリジナルのプロセッサーを作るビジネスの代表的なものとして、ゲーム機があった。これはゲーム機が販売数量を稼げるから可能なことだった。しかし、昨今では、ソフト開発効率とプロセッサー開発コストのリスクを重くみて、主要なゲーム機のプロセッサーは、AMDとの共同開発に切り替わっている。
その一方で、スマートフォンやPC、クラウド向けサーバーなどでは、自分たちがリスクを取って、より独自性の高いプロセッサーを開発する流れが加速している。アップルはその最右翼だ。15年前には「自分で半導体工場を持つ」ことでしか最先端のプロセッサーを作るのは難しかった。しかしいまは台湾・TSMCやサムスンのような「最先端技術による半導体製造を請け負う企業」が登場したことにより、リスクを小さくして、自社オリジナルのプロセッサーを製造することができるようになっている。
とはいえ、一定以上の規模のない製品では、オリジナルのプロセッサーを使うのは難しいだろう。率直に言えば、日本のPCメーカーやスマホメーカーの規模感では難しい。そういった企業には、インテルやAMD、クアルコムがプロセッサーを提供し続けることになる。
自らプロセッサーを作る超大手と、大手プロセッサーメーカーと組む企業の間での競争は、2021年の後半あたりから加速し始めるのではないか。M1 Macの登場は、その先触れとも言える存在だったのである。
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