Vol.103-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「ミニLED」。新iPad Proの12.9インチモデルで採用されたことで注目を集める同技術を深掘りする。
アップルは5月に発売となった「12.9インチiPad Pro」で、液晶ディスプレイのバックライトとして「ミニLED」を採用した。ミニLEDを採用した液晶ディスプレイは、画面内の明るい部分だけバックライトを光らせる処理がしやすく、結果として、一般的な液晶ディスプレイと比べてコントラストが劇的に改善する。iPad Proに搭載されたディスプレイのコントラストは「100万対1」。映像に自然な立体感が感じられ、発色もより良いものになっている。一般的な液晶ディスプレイの場合、黒を表示してもほんのりと白く見えてしまうが、ミニLEDを採用したiPad Proでは、「黒がちゃんと黒く」表現されるのだ。
一方、コントラストに優れていて黒が黒のまま表示されるディスプレイはミニLEDを使った液晶ディスプレイだけではない。「有機EL」は、まさにこうした特徴を備えたものである。それどころか、コントラストだけならミニLEDより優秀だ。例えばiPhone 12のディスプレイは、コントラスト比「200万対1」。12.9インチiPad Proのさらに倍を実現している。スマートフォンではすでに有機ELが全盛だし、一部のノートPCやタブレットにも有機ELを採用した製品が出始めている。とすると、「なぜアップルはiPadに有機ELを使わなかったのだろう」というシンプルな疑問が思い浮かぶ。
その理由をアップルは語っていない。だが、容易に想像はつく。おそらくは「コストと調達量」の問題だ。
現在、市場に出回っている有機ELパネルは、主にスマートフォン向けとテレビ向けに分かれる。前者は6インチくらいまでが主流で、後者は48インチ以上。テレビ向けを小さいものに転用するのは難しく、モバイル向けを大きい製品に使う場合、コストがどんどん高くなる。
ハイエンドな製品であれば多少価格が高くなっても許されるし、年間に数万台レベルなら調達も無理ではない。だが、iPadはハイエンドの「Pro」であっても、年間に最低数百万台が販売される。他のハイエンドノートPCやタブレットとは比較にならない台数が出荷されるため、十分な数量を調達するのは非常に困難なのだ。つまり、「13インチクラスの有機EL」を使える状況にはない、と想定できる。
また、有機ELにはまだ「焼き付き」のリスクも多少ある。テレビのように毎日違う映像を表示するデバイスや、スマホのようにすぐに画面を消すデバイスではそこまで問題にならないけれど、PCやタブレットのように長くディスプレイを点灯しておくデバイスで、しかもUIなどが同じ場所にずっと表示され続ける場合、他の機器より焼き付きのリスクは高くなる。だとすると、「いまはまだ液晶を使ったミニLEDのほうがリスクは低く、メリットが大きい」と考えても不思議はないわけだ。
では、ミニLEDを他社はどう扱おうとしているのだろうか? そのあたりは次回以降、解説する。
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