Vol.104-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「home 5G」。NTTドコモ夏モデルのなかでもひときわ異彩を放つニューフェイスは、何がスゴいのか?
NTTドコモが8月から販売する「home 5G」は、いわゆるモバイル端末ではない。家庭に据え付けて使うルーターである。だが、通信には携帯電話回線を用いており、スマホのテザリングやモバイルルーターを使うことと回線品質的には大きな差がない。
なぜこうした製品をNTTドコモが出したのか? そこには、現在の利用状況を「追認した」という部分が少なからずあるだろう。
現在の若年層、特に単身家庭では、自宅に光回線などを引かない例が多い。携帯電話の費用があり、そのうえでさらに固定回線まで負担するのは厳しいという理由もあれば、単身で自宅にいる時間が短く、引っ越しなどの手間もあるので必要性を感じないケースもある。そうした家庭は当然ながら、テザリングなどを活用してモバイル回線をスマホ以外でも使っていた。もちろんデータ量に上限があるなかでの話だが、そうした制約もしようがないと受け入れているわけだ。
ただ、そうした世帯もコロナ禍でテレワークやオンライン授業が増えると、スマホ回線だけでは通信を維持できなくなってきた。2020年に、大手携帯電話事業者が若年層向けに「データ利用量を増やす」措置をとったが、これは政府から、若年層への支援策として求められたからでもある。
一方、こうした状況を打破するために、回線の導入を検討した世帯も多い。そこで数多く選ばれたのが、ソフトバンクの「Softbank Air」と、KDDI傘下・UQの「UQ WiMAX」である。これらの2社はもともと、若年層を中心に「固定回線代わりのモバイル回線」を提供してきた。「Wi-Fi」というと無線LANそのものでなくモバイルルーターのことを指す……と思っている若年層も多いのだが、その理由は、各社が固定回線代わりに、モバイルルーターを積極的に販売した時期があったからである。
そんなこともあって、単身家庭を中心にコロナ禍でも携帯電話回線を使うルーターは積極的に拡販され、ビジネス的には思わぬ追い風となったわけだ。
NTTドコモも店舗での施策を中心にモバイルルーターを売ってはいたが、他社ほど目立っていたわけではない。そこへ、NTTドコモの経営体制の変化と5Gの導入が状況の変化を促した。NTTドコモがNTTによって完全小会社化されたことで、「他社に対して、新規加入顧客数でも負けてはいられない」という気運が高まったのだ。そんななか、今後契約回線が増える可能性が高いジャンルとみられたのが「家庭向け」だ。
4Gのままではキャパシティ的に十分な余裕がある、とは言い難いものの、今後数年のうちに5Gが基本となれば、家庭用回線の増加に伴って増える負担も大きな問題ではなくなっていく。さらに、5Gであれば速度的な不利も小さい。他国、特にアメリカや中国では「固定回線の代わりとしての5G」導入が進んでおり、日本でも同じことができないはずはない。
というわけで、回線インフラに自信があるNTTドコモは、価格的にも大胆な施策を用意。5G時代を見据えて「家庭向け回線市場」に打って出たというわけだ。
一方で、その価格の裏には、ちょっとした秘密や軋轢の種も存在する。それはどんなものだろう? 次回ではココを解説する。
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