Vol.114-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルが発表した、独自のCPU技術を駆使したMac Studio。本製品の登場で、次期Mac Proはどのような製品になるのかを予想する。
M1 Ultraより速いプロセッサーを、アップルはどう考えているのだろうか? Appleシリコン版Mac Proが登場する場合、M1 Ultraよりも高速なプロセッサーが求められる可能性もある。
筆者は、Mac Pro向けのAppleシリコンは、ほかとはちょっと違うモノになると予想している。
前回の連載でも解説したが、M1シリーズには“拡張性が低い”という欠点がある。PCI-Expressによる拡張を想定しておらず、メモリーもプロセッサーに一体化されている。だから消費電力が低い割に高速なのだが、Mac Proのように拡張性が重要な用途には向かない。
そのため、Appleシリコン版Mac Proでは、M1 Ultraともさらに違うプロセッサーが使われるのだろう、と予測している。
さすがにその構造を正確に予測するのは難しい。インテルやAMDのプロセッサーのように、シンプルに外部接続を前提としたものになる可能性はあるものの、それだとAppleシリコンの良さが出にくいので、なにか不利をカバーする仕込みが、M1シリーズにはあるのではないか……という気もする。
では速度はどうするのか? 「M1 UltraではM1 Maxを2つつなげたのだから、今度は4つでも8つでもつなげばいいのでは」という声もある。だが、そう簡単にはいかない。
M1 Ultraで採用された「UltraFusion」は、プロセッサーとして実装する際に2つのM1 Max同士を密結合する技術だ。ただ、その特性上非常に微細なものであるため、さらに2倍・4倍と実装を増やしていくのは技術的に困難だろう。
サーバーのような高性能PCでは、複数のCPUを搭載する際にひとつのパッケージには入れず、マザーボード上などに複数搭載する形になっている。そうするとデータ転送や消費電力で不利になり、「2つ積んだから2倍」と単純には高速化しなくなる。
だが、そうしたやり方を採らないと、多数のプロセッサーを搭載するのは難しい。そうすると、「多数のM1を外部接続することを前提とした特別な構造」のものを作り、多少実効値が落ちても数でカバー……というパターンになるのではないか。
また、そもそもM1シリーズ共通の課題として、CPU・GPU1コアあたりの性能は同じであるという点がある。複数のCPU・GPUを活用できるアプリは速くなるが、そうでないものはコアの速度に引っ張られてしまう。M1 Ultraなのに思ったほど速度が上がらないパターンはこれが原因だ。
となると、根本的にコアを高速化するには、アーキテクチャを進化させた、仮に「M2」とでもいうべき次世代プロセッサーが必要になる。
アップルは当然「M2」をすでに準備済みだろう。いつ出てくるかはわからないが、iPhoneのプロセッサーが年々変わるように、タイミングを見てM1を置き換えていくものと想定される。
ただ、それと前述のMac Pro用Appleシリコンの登場時期がどう関係するかはわかりづらい。M2(仮称)アーキテクチャからMac Pro用も作るのか、それともM1ベースで作り、その後にM2搭載のMacもでてくるのか。
この辺は注意深く見守っていきたい。
週刊GetNavi、バックナンバーはこちら