デジタル
2015/9/24 8:13

“非IT系”な人でも楽しめる Microsoft「FEST2015」レポート

3つのイベントが統合された日本マイクロソフト最大のイベント

「FEST」とは、今年から始まった日本マイクロソフト最大のイベント。従来開催していた3つのイベントを発展・統合させたものです。9月2~4日の3日間で開催され、テーマは「革新とその先への共創」。実は、GetNaviもメディアスポンサーとして参加しておりました。

おもにIT関連企業や団体の関係者を対象としたイベントですが、展示会場にはGetNavi的に興味をそそられるブースも多数存在。今回は、その中からいくつかをお伝えします。

 

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会場の「ザ・プリンスパークタワー東京」。高い! ……が、会場は地下なのでした。

 

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展示会場を入るとソフトバンクのブースがあり、PEPPERがお出迎え。人間を認識して、ティッシュを手渡してくれました。(本体価格は19万8000円)

 

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展示会場内の様子。開始時間から終了時間まで、常に混雑しているという盛況ぶり。

 

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展示会場にはステージが設けられ、さまざまな製品やテクノロジーの解説を聴くことができました。

 

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発売後まもない「Surface 3」と「Windows 10」には広い体験スペースを用意。多くの来場者が熱心に操作していました。

 

「退会しそうなユーザー」を自動的に発見!

ナレコムクラウド:ナレッジコミュニケーション社

 

マイクロソフトが提供しているクラウドサービス「Windows Azure」。その中の「Azure Machine Learning」という機械学習を利用したシステムの構築や運用を支援するのが、株式会社ナレッジコミュニケーションの「ナレコムクラウド」です。

 

最近「ビッグデータ」という単語をよく耳にするようになってきました。これは、SNSや通販サイトといった会員制サイトのユーザー情報や、ポイントカードや電子マネーを利用した購買履歴などが記録された、膨大な情報のこと。このビッグデータの分析は、従来は専門的な知識を持った人間が行なっていました。そのため、分析する人の能力によって精度が変わってしまったり、時間も多くかかります。

 

この分析を、コンピューターで自動的に行なえるようにしようというのが、機械学習です。たとえば、ある会員制サイトで、サイト内での各会員の行動を逐一記録していたとしましょう。そのデータを常に機械学習システムにも流し続けます。すると、たとえば「○○という行動をとった会員は、1か月後に退会している確率が高い」といった分析結果が得られ、「退会しそうな会員」を発見することができるわけです。機械学習のメリットは、その後のフォローも自動化できること。たとえば「退会しそうな会員」を見つけたら、特別キャンペーンのメールを送信するといったアクションを起こすなどです。

 

海外では、社員の勤怠状況などのデータを機械学習させ、「うつ病を発症しそうな社員」を発見するといった使われ方もしています。

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ナレッジコミュニケーションのブース。手前にいるのはもう1つの展示、人型ロボット「NAO」

 

将来はビッグデータから機械学習するロボットも?

上の写真にもあるように、ナレッジコミュニケーションのブースには人型ロボットもいました。このロボットは「NAO」といい、冒頭でも紹介した「Pepper」と同じくAldebaran社の開発したロボットです。ナレッジコミュニケーションでは、このNAOやPepperを動作させるためのアプリケーション開発もしています。クライアントからの要望に応じて、たとえば人間の質問に答えたり、指示に応じた動作を行なったりできるようにするということです。

 

「ビッグデータの機械学習」と「ロボットの動作アプリケーション」の2つは、なんだかまったく異種のサービスに感じるかもしれません。しかし、この2つを合わせると「ビッグデータを機械学習した結果を行動に反映させるロボット」を作ることができます。たとえば店舗内では、来客の年齢・性別・出身地・これまでの購買履歴などから、好みそうな売り場に誘導するような店員ロボットを作れるかもしれないのです。

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人型ロボット「NAO」。Pepperと同じく、人間の顔を認識してこちらを見ようとします。

 

「明日は刺し身の注文が多そうだから大量に発注だ!」が自動的にできる

「QOOpa」:セカンドファクトリー社

セカンドファクトリーの「Qoopa」は、前述した「Windows Azure」を利用して、飲食店向けのシステムを構築・運用する製品です。Qoopaの特徴は、「客席でオーダーをとる」から「店舗を経営する」までをITで連携させられるということ。Qoopaを導入した店舗がどうなるかの一例を見てみましょう。

 

まずテーブルで、客からの注文を店員がスマホやタブレットに入力します。すると、キッチンにあるプリンターからオーダー内容が出力されるので、店員はキッチンに注文を伝える必要がありません。また、この時点で注文内容はクラウドにアップロードされます。店内だけで伝わればいいのに、なぜクラウドに? と思うかもしれませんが、そこには多くのメリットがあるのです。まず、クラウドを経由していることで、たとえば屋外や仮設店舗といった、LANを構築するのが難しい場所でも導入できます。また、同じくクラウド上にある会計ソフトにデータを渡すことも可能。テーブルで注文が完了した時点で、売上データとして会計ソフトに入力できているようなものです。

 

そして、これぞクラウドを利用するメリットといえるのが、ビッグデータや機械学習の利用ができるということです。Qoopaを利用することで、ある日の天気・気温・曜日・月末月初・近隣のイベントといった条件から、その日に何が多く注文されたかというビッグデータが得られます。そして機械学習によって、「明日はなにが多く注文されるか?」の予測ができるというわけ。また、「来月は何日にどのくらいの来客が見込めるか」を予測して、アルバイトのシフトを決めることもできます。

QOOpaはすでにいくつかの飲食店で導入されています。昨年夏には、セカンドファクトリー自らがQoopaを利用した海の家を運営して話題になりました。ビッグデータと機械学習がすでに社会で活用されていることの、身近な例といえるでしょう。

 

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セカンドファクトリーのブース。

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注文のための端末。店員が端末を持って入力することもできるし、客が自分の端末から直接注文することも可能(店舗の導入するシステムによる)

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注文内容がデータ化されているため、人気商品ランキングを正確に把握でき、リアルタイムに表示することも可能

 

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客席のテーブルによくある「利用アンケート」も端末から入力できるので、店側は集計が不要になる

 

 

問題の発生しているトイレ個室を探せ!

「トイレのおもてなし」:ユニアデックス

ほとんどの施設で、トイレは定期的に巡回清掃していることでしょう。この巡回間隔が短いと無駄ですし、長すぎると汚れた状態が続いてしまうことになります。かといって、トイレに監視カメラを設置するわけにもいきません。

 

この問題を解決できるのが、ユニデックスの「トイレのおもてなし」です。

このシステムでは、個室トイレのドアにセンサーを取り付け、人の出入りを記録します。たとえば、単に「ある個室の出入りが少ない」というだけなら、その時間帯に人が少ないだけかもしれません。しかし、その両隣の個室は出入りが頻繁であるとしたらどうでしょうか。その個室は、汚れているなどして利用を避けられている可能性があるというわけです。

 

ポイントは、この出入り記録をビッグデータとしてクラウドに送り、分析できること。それによって、より正確に「異常さ」を発見できます。たとえば個室で、個室トイレに長くこもっている人がいる場合、なんらかの事故が起きている可能性もあります。ただ、その「長さ」の基準を決める際にビッグデータから学習して、例えば病院の場合、「この科・この年齢の患者が多く入院しているフロアでは、トイレの利用時間は元々長い傾向にある」といった情報を利用できるわけです。

まだ開発中ではありますが、病院やショッピングセンターなど、大型施設にはありがたいシステムといえるでしょう。
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日本ユニシス/ユニアデックスのブース。

 

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センサーを取り付けられた個室トイレの模型。このドアを開け閉めすると、実際に開け閉めのデータが送信されます

 

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管理画面。たとえばあるトイレの利用時間が、その個室の普段の使われかたに対して異常に長い場合には、警告が表示されます。

 

ビックデータでドローンを賢くする

「どんどんドローン」:日本ユニシス

最近、悪者として話題になりがちなドローンですが、今年の5月に日本初の国際ドローン展が開催されるなど、本来の特性を活かせる活用法には熱い注目が集まっています。ドローンは「無人機」と呼ばれることもありますが、操縦は人間が行なうのが一般的。しかし「どんどんドローン」は、操縦をも機械で行なうシステムになっています。

そのカギを握っているのは、ここでもやはりクラウドとビッグデータの機械学習。

たとえば農地を上空から監視している際に、鳥獣や地すべりに遭遇すると、「いつもと異なる画像」として検知します。そして、対象に近づいて威嚇したり、警報を発令するといった対処を行なうことができるわけです。

また、作物の映像は天候や温度などとともにクラウドに蓄積されます。それを元に、「この時期・この天候でこの大きさということは発育が悪いので、対処が必要」といった情報を提示できるのです。

「どんどんドローン」も現在は開発中ですが、棚田や段々畑の多い日本では、ドローンは非常に有効な監視手段。そのドローンがクラウドによって「賢く」行動できれば、農家にとって強い味方となってくれそうです。
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「どんどんドローン」のデモ。実際の実験は、ドローンで有名なParrot社の製品を使っているとのこと。

 

場内の混雑エリアや「関心度」を一括表示

「次世代イベント運営支援ソリューション」:富士通アドバンストエンジニアリング

 

富士通アドバンストエンジニアリングの会場の入り口では、なにかチップのようなものを配布。全員に配布されるわけではなく、ランダムに渡されているもようでした。実はそれが、イベント運営支援用のセンサービーコンだったのです。

場内の数か所に設置されているモニターには展示会場の図面が表示され、センサービーコンを身に着けている人間の位置が表示されていました。それを見れば、場内でどのエリアが混雑しているか、どこが閑散としているのかがわかります。また、ずっと見ていると人の流れもわかってきました。

そして、このセンサービーコンを裏返すと「Bravo!!」の意思表示をすることができます。これは「いいね!」ボタンのようなもので、目の前のものを良いと思ったら一票入れられる仕組みです。ただ人が集まっているだけでは、「そこが休憩所代わりになっている」といった理由もありえますが、「Bravo!!」を集計することで、興味の持たれた場所をより精密に知ることができるというわけです。集まった情報はもちろんクラウドにアップロードされ、どのような展示が成功したのか、動線はスムーズだったかといった分析ができます。

 

位置情報といえばGPSがよく知られていますが、GPSは誤差が数mあるうえ屋内では利用できないことが多いため、このような用途には利用できません。「次世代イベント運営支援ソリューション」では、屋内に複数のゲートウェイ装置を設置し、そこから各センサービーコンの位置を得ていました。

 

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「ダッシュボード」画面。チップを装着している人の密集具合や、チップを裏替えして「Bravo!!」した人の数がわかります。

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会場内のあちこちに設置されていた「ゲートウェイ装置」。これでセンサービーコンを検知します。

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センサービーコン。首に下げておき、裏返すと「Bravo!!」したことになります。重さはまったく感じません

 

「IoT」がクラウド活用の大きなカギとなる

 

いかがだったでしょうか。

比較的わかりやすい展示を中心に紹介しましたが、それでもマイクロソフトの描く「ITの未来」が見えてくるような気がします。IT関連の重要なキーワードとして「クラウド」がありますが、FESTの基調講演や各種セッション、そして展示を取材していると、もはやクラウドは「次世代のキーワード」ではなく「いま当たり前に活用されているもの」ということがわかります。

 

そして、これからのクラウドで注目したいのが、「IoT」。今回のFESTでも頻繁に目にしたキーワードです。IoTとは「Internet of Things」(モノのインターネット)の略。簡単にいえば、道具などの「モノ」を、インターネットに接続して使うということです。普通、インターネットといえば「コンピューター(サーバー)とコンピューター(パソコンなど)」をつなぎ、情報をやりとりします。それに対してIoTは、「コンピューター(サーバー)とモノ」をつないで、コンピューターからモノを動作させたり、モノからコンピューターに情報を送ったりするのです。

 

たとえば、インターネットに接続できるテレビやレコーダーなどのスマート家電も、IoTの活用例といえるでしょう。IoTは決して新しい概念ではないのです。それではなぜ今IoTが注目を浴びているかというと、それはクラウドやビッグデータとの連携が可能になったから。今回紹介した展示も、実はどれもIoTの活用例といえます。

 

単にインターネット経由でモノを動かすのではなく、膨大な情報とその分析を元にモノを動かし、モノが動作して得られた情報が、またクラウドでビッグデータとして蓄積されていく。IoTは、今後もクラウドの大きな活用方法として発展していくことでしょう。