デジタル
2022/11/9 19:32

【西田宗千佳連載】iPhone 14シリーズに搭載、今後のカメラに影響する大きな機能とは?

Vol.120-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新型iPhone。カメラ機能で新たに搭載された「Photonic Engine」に迫る。

↑iPhone 14シリーズ。11万9800円~。スタンダードなiPhone 14は、5年ぶりに6.7インチの大画面モデルのiPhone 14 Plusが登場。iPhone 14 Proは高速のA16 Bionicチップを搭載し、メインカメラが4800万画素に向上した。どちらも緊急時に指定連絡先に自動で通話する、衝突事故検出機能を搭載している

 

iPhone 14およびiPhone 14 Proには、あまり語られない変化点がある。それは「写真撮影のプロセスに変更が加えられた」ことだ。AppleはiPhone 14以降、静止画の撮影に関わる構造を大きく変えた。Appleはそこに「Photonic Engine」という名前をつけている。

 

Photonic Engineはソフトウェアベースの機能だが、撮影処理の初期段階から使われ、撮影して「写真」ができるまでのパイプライン全体に関わる。iPhoneのカメラ機能には複数の画像を合成してダイナミックレンジを広げる「Deep Fusion」という機能があるのだが、この要素を写真データがよりRAWに近い段階からかけていくことで、中低光量部分のディテールを豊かなものにする。

 

実質的に静止画撮影の機能を作り直したようなもので、iPhone 13とは大きく異なっている。前述のように、その内容はソフトウェアを基本としたものなのだが、センサーやISPなどと密結合する形で実装されているので、「iPhone 13にもOSアップグレードで搭載」というわけにはいかないようだ。iPhone 14以降の機能として使われていくことになる。なお「静止画用」と書いたように、Photonic Engineは動画には使われない。それぞれ別のソフトウェアが適用されるという。

 

では、Photonic Engineの効果がすぐにわかるかというと……そうでもない。理由は、すでにiPhoneの写真撮影機能が十分に高度であり、条件の良い撮影シーンだと差がわかりにくくなっているからだ。たとえばiPhone 14 Proにおいて、メインカメラでセンサーが1200万画素から4800万画素に機能アップし、暗いシーンや手ぶれが起きやすいときなど、厳しい撮影シーンでの価値を大きく高めてくれるが、スマホの画面だけでは違いがわかりにくくなってきているのも事実だ。

 

ここから、ハイエンドスマホのカメラ機能が戦うのはスマホ同士というより、カメラ全体になる。だが、一眼カメラに比べ、スマホのカメラはレンズやセンサーのサイズでは不利だ。これをひっくり返すことはできない。

 

一方で、ソフトウェア処理を重ねる能力、すなわち写真に対して処理をするのに必要なコンピューターパワーに関しては、カメラよりもスマートフォンの方が圧倒的に優れている。いわゆる「コンピュテーショナル・フォトグラフィ」(コンピューターで処理された写真)の最先端はスマホにある。

 

ただし、スマホの場合であっても、データ処理には限界がある。巨大なセンサーを積めば積むほどデータは大きくなるが、それをスムーズに内部で移動できるバス速度やメモリー、処理速度などを、低コストかつ消費電力の低いハードで処理するのは大変だ。そうすると、画像が撮影された直後の、センサーから出た「生」に近いデータを処理するのはちょっと難しかったりもする。

 

Photonic Engineは、できるだけ撮影後すぐの「生に近いデータ」から処理を開始するソフトウェア構成であるという。スマホならではの事情をできるだけ回避しようとしているのだ。そうした発想はどのハイエンドスマホメーカーも持っており、なにもAppleだけのものではない。

 

しかし、Appleはあえて名前をつけてアピールを始めた。このへんは、今後のiPhoneのカメラ機能の方向性を予想するうえで、重要なことではないかと考えている。

 

では、それ以外の要素はどうか? 実はかなり今年は、「スペック的には目立たないが戦略的な投資の年」だったように思う。それがなにかは、次回解説する。

 

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