デジタル
2022/11/4 10:30

【西田宗千佳連載】AppleはiPhone 14の見えない部分に「次の時代に向けた布石」を打った

Vol.120-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新型iPhone。スタンダード機とProとでつけた差はどこにあるのか、解説していく。

↑iPhone 14シリーズ。11万9800円~。スタンダードなiPhone 14は、5年ぶりに6.7インチの大画面モデルのiPhone 14 Plusが登場。iPhone 14 Proは高速のA16 Bionicチップを搭載し、メインカメラが4800万画素に向上した。どちらも緊急時に指定連絡先に自動で通話する、衝突事故検出機能を搭載している

 

iPhoneはここ数年、スタンダード(数字だけの名称)モデルと、「Pro」モデルにラインが分かれている。といっても例年、使っているプロセッサーは基本的に同じであり、メインメモリーの量や搭載しているカメラが主な違いとなっていて、設計的にも大幅に異なるものではなかった。

 

だが、今年は少し様相が異なる。

 

まず、プロセッサーが違う。Proシリーズは最新の「A16 Bionic」であるのに対し、スタンダードが採用したのは昨年発表の「A15 Bionic」。実際には昨年の「iPhone 13 Pro」シリーズが使った、GPUが5コアある上位版だが、Proシリーズとは例年以上にグレードが違うのは間違いない。

 

カメラも同様だ。メインカメラで4800万画素のセンサーを採用したのはProだけ。望遠のあるなし、LiDARのあるなしだけではない違いが生まれた。

 

そして、もう1つ大きな違いは、使っているだけではわからない点だ。

 

iPhoneのスタンダードモデルは、ディスプレイや背面のガラスが割れた際でも、修理の際に取り外して交換するのが容易な構造になっている。だからといって素人が手を出せるものではない。しかし、少なくとも修理事業者であれば、従来のiPhoneよりも簡単に修理を終わらせることができるはずだ。

 

すなわち、設計の方針を多少変更し、製造や修理のプロセスを簡便化したのである。

 

このことは、正直なところユーザーにはあまり関係のない話だ。だが、メーカーとしてのAppleにとっては重要なプロセスである。

 

ヨーロッパを中心に「修理する権利」が注目されている。買った製品をメーカーが修理するだけでなく、持ち主自身の責任のもとに修理し、使い続けられる権利のことだ。確かに一理あり、省資源化のためにも必要なものかとも思う。

 

メーカーとしては、他人に修理されるよりも自分達が修理することを望んでいる。だが、修理自体は簡便になるよう設計を最適化していくほうが、メーカー自身にとってもプラスにはなる。数が少ない製品ならともかく、iPhoneのように大量に売れる製品ならなおさらだ。

 

一方で、iPhone 14 Proシリーズは、iPhone 14と違い、修理を意識した新しい設計にはなっていない。なぜ設計を共通化しなかったのか、少々不思議な部分ではある。

 

これは筆者の想像に過ぎないが、「両方をいっぺんに変えるのは大変すぎた」のかもしれない。

 

マニアはProシリーズに注目するが、Appleとして長く、本当にたくさん売れるのはスタンダードの方だ。翌年新機種が出ても、ある種の低価格版としてそのままラインナップに残るのが通例でもあり、売られる期間も長い。

 

だとすれば、設計ポリシーの変更を先にやるべきは「たくさん、長く売られ続けるモデルから」ということになるわけで、スタンダードモデルが選ばれた……ということかもしれない。

 

この設計変更は、間違いなく、Appleが次の時代に向けた「布石」と思える。ではほかの布石はないのか? その点は次回解説する。

 

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