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2023/9/7 5:45

次世代の交通サービス「MaaS」時代に「Yahoo!乗換案内」はどう変わる? ヤフー責任者を直撃

電車やバスで移動する人なら誰もが知る乗換案内サービス。一見、電車の駅から駅までの乗換ルートを表示するシンプルなツールのように見えますが、実はその裏には、意外な工夫が隠されています。今回、「Yahoo!乗換案内」と「Yahoo!路線情報」を運営するヤフーの山本さんに、このサービスの裏側や知られざる便利な機能について、うかがいました。

↑山本拓巳氏:Yahoo!乗換案内、Yahoo!路線情報のサービスマネージャー

 

Webで見るYahoo!路線情報、アプリで見るYahoo!乗換案内

―― 改めて、Yahoo!乗換案内について教えてください。

 

山本氏 Yahoo!乗換案内は、公共交通を使って移動する人に向けて、移動における不安や手間がないように情報をお届けするアプリです。出発地から目的地までの乗り換え経路を検索する機能、時刻表を見る機能、運行情報を見る機能を備えています。

 

―― Yahoo!路線情報というサービスも提供していますよね。乗換案内とはどう違いますか。

 

山本氏 Yahoo!乗換案内とYahoo!路線情報で、基本的な機能は共通です。違うのは、Yahoo!路線情報は、Webブラウザーで見るサービスで、Yahoo!乗換案内はアプリで見るサービスであるという点。Yahoo!路線情報は、ヤフーの中でも古株のサービスで、1998年から提供しています。ユーザーにとって親しみのある名前ですので、今でもこの名前を使い続けています。

 

スマホ向けのアプリは2008年のiPhone 3G発売を機に提供をスタートして、今年(2023年)で15周年を迎えます。当初はWeb版と同じ「Yahoo!路線情報」という名前を使っていました。その後、アプリでは「乗換案内」という言葉が一般名称として定着してきましたので、ユーザーにとって分かりやすい名前にしようということで「Yahoo!乗換案内」という名前に変更して、今に至っています。

↑アプリの「Yahoo!乗換案内」(左)とブラウザーで見る「Yahoo!路線情報」(右)、基本的な機能は共通ですが、それぞれの使い方に合わせて調整されています

 

―― パソコンやガラケー時代と比べて、現代のスマホユーザーは乗換案内アプリの使い方に違いがありますか。

 

山本氏 現地で、今乗りたい電車を検索する使い方が増えました。ガラケー時代をふり返ると、当時携帯電話で使えたインターネット環境は回線速度が速くなく、画面もかなり小さい。乗換案内のようなツールでは、事前にパソコンで調べて、必要な人は印刷したり、ガラケーでメモして後で参照できるようにしたりするという使い方が一般的でした。

 

スマホ時代になっても、もちろん事前に検索する使い方は残っていますが、駅に着いてからもう一度検索したり、少し早く着いたから乗る列車を改めて検索しなおしたりという、その場での検索が増えてきているのかなという風に感じます。

 

―― スマホ時代になったことで、駅にいる人が「今、ここから」移動する手段を探すことが増えているということですね。

 

山本氏 そうですね。乗換案内を提供する側としては、移動中の利用をサポートするような仕組みが必要と考えています。移動手段を事前に検索するときは、電車に乗る時間を少なくして、出発時刻をなるべく遅くしたいといったような、効率的なルートが求められます。

 

対してスマホ時代には、移動中に経路を見直して、より効率的に乗り換えたいというニーズが増えています。たとえば、とりあえず各駅停車に飛び乗って、車内で乗換検索して、より早い快速列車にどこで乗り換えたら良いかを探すという使い方をする人がいます。こうしたリアルタイムの情報を求めるユーザーに対して、より積極的に対応したいと考えています。

 

ほかのサービスとの違いは“すべて無料”

―― 「路線情報」と「乗換案内」を見比べてみると、画面の構成に違いがあるように思えます。アプリの乗換案内の方が、全体的にすっきりとした見た目で、余分な情報を省くような作りになっているように感じました。スマホ向けならではのこだわりがあれば教えてください。

 

山本氏 スマホでの利用が増えているため、乗換案内をいかに洗練されたものにするかに注力して制作しています。小さな画面で、外で見ることが多いスマートフォンでは、情報の整理を表示や、ユーザーインターフェース(UI)を洗練させることに工夫が必要です。わかりやすい例としては、検索結果の画面で「発着時刻」や「乗り換えの駅名」といった情報は、特に大きく表示されます。情報を重要度に応じて適切なサイズを設定して、ユーザーがパッとみて情報を把握できるようにしているのです。

↑Yahoo!乗換案内の検索結果一覧。スマホサイズの画面でも情報を得やすいよう、アイコンや文字の大きさが工夫されています

 

デザインや操作性を含めて、ユーザーが使っていてどのように感じるかは非常に力を入れています。デザイン変更1つにしても、社内の別のデザイナーによる相互レビューを行なっていますし、新しい機能を作ったときはまず社内でしっかりと使い倒して検証します。サービスを磨き上げてから提供できるよう心がけています。

 

―― スマホ時代のYahoo!乗換案内にとって、ライバルとなるのはどのようなサービスでしょうか。

 

山本氏 直接的な競合としては、「ジョルダン」や「NAVITIME」のような、他社の乗換案内アプリはもちろん意識しています。また、サービスの種類は違いますが、公共交通を使った移動の案内も対応している「Google マップ」も研究させていただいています。

 

―― 他社サービスと比べると、Yahoo!乗換案内にはどのような特徴がありますか。

 

山本氏 2つの大きな特徴があります。1つはシンプルで、Yahoo!乗換案内は、すべての機能を無料で使えることです。

 

もう1つは、「スポット検索」という機能があります。乗換案内は一般的に、駅から駅までの情報を検索するツールですが、Yahoo!乗換案内では、住所やお店、観光スポットなど場所の名前を入れて検索できます。たとえば東京タワーまで行きたいときに、「東京タワー」と入力すると、神谷町駅や大門駅などの最寄り駅からの移動時間を含むルートを表示できるようになっているのです。

↑駅だけでなく、観光地や商業施設などの場所で検索できる「スポット検索」。複数の最寄り駅がある都心の施設に行きたいときに便利です

 

―― どうしてすべての機能を無料で提供できるのでしょうか。

 

山本氏 Yahoo!乗換案内/路線情報のどちらも、主な収益源は広告となっているためです。検索結果ページなどに貼られたバナー広告の収入で、事業を成立させる設計にしています。ただし、Yahoo! JAPANとしては、単なるサービスの成立よりも、各事業が相互に補完し合い、1つの大きなエコシステムとして便利なサービスを提供することが目指すところです。

 

地元のローカルな情報の提供はその中の1つのテーマです。地図や地域のイベント情報、道路の交通情報など、ユーザーが求める多岐にわたる情報を提供しています。その中で、電車での移動情報も重要なニーズの1つと捉え、Yahoo!路線情報やYahoo!乗換案内がその役割を果たしています。

 

地図アプリに対して乗換案内の優位点は?

―― Google マップも研究されているというお話でしたが、地図アプリのGoogle マップと比べると、乗換案内アプリにはどのような便利さがあるのでしょうか。

 

山本氏 Yahoo! JAPANでもYahoo!マップという地図サービスを運営していて、公共交通の検索もできるようになっています。一方で、乗換案内特化型だからこその便利さもあると考えています。地図が便利なのはたとえば、新しいお店を探して、出会うときです。Yahoo!マップならお店探しから、見つけたお店までどのくらいかかるのか調べるなど、経路の案内まで、1つのアプリで対応できます。

 

一方で、乗換案内では、目的地までの移動経路や時間、料金を、一目で把握できるという点で分があります。この路線で何時何分に乗り換えて、料金は●●円で……と比較しながら使うのは、乗換案内が便利です。目的地までの歩き方がわかっている通勤・通学や、休日のちょっとしたお出かけで時間だけ知りたいという場合にも、乗換案内なら、サッと情報を把握できますよ。

↑遅れている路線を回避して検索する「迂回路検索」機能を備えています

 

電車・バスのリアルタイムな情報を把握できる

―― 最近追加された機能でイチオシな機能はありますか。

 

山本氏 最近で力を入れているのは、リアルタイム運行情報です。たとえば「乗りたい電車が今、何駅前にいる?」とか、「この列車は1分遅れで運行しています」といった、列車・バス単位での情報を提供します。鉄道では、2月にはJR東日本と小田急電鉄と連携し、首都圏の主要な鉄道路線の多くで情報を表示できるようになりました。

↑8月末に路線図機能が「公共交通マップ」にリニューアル。全国約700路線の列車の走行位置を地図上で確認できる「トレインキャスト」機能がスタートしました(当初はiOS版のみ)

 

―― 乗りたい電車のピンポイントな情報が見られるのは便利ですね。バスの路線でもこの機能は使えますか。

 

山本氏 バスでも順次対応を進めています。首都圏では都営バスや横浜市営バス、西武バスなどで利用できるようになっています。「このバスは1つ前のバス停を出た」とか「ゆったり座れる程度の混雑状況です」といった情報を表示します。

↑バスのリアルタイム位置情報の表示にも対応。今乗りたいバスが何分後に来るのかを表示できるようになっています(出典:https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2021/02/25a/

 

バスは、道路の混雑状況によっては大きな遅延が発生したりしますし、雨が降った日には車内が普段よりも混み合ったりといったように、鉄道以上に状況が変化しやすい乗り物です。一方で、運行情報を発信するための共通規格の利用が進んでいて、バス会社さんがオープンデータとして公開するケースも存在します。ヤフーはこうしたオープンデータも積極的に取り入れて、より使いやすい乗換案内サービスを提供していきたいと考えています。

 

MaaSをヤフーのサービスだけで完結することにこだわっていない

―― 最近では「MaaS」という、公共交通の予約をより便利にしようという概念も広まりつつあります。MaaS対応についてヤフーさんはどのように考えていますか。

 

山本氏 決済機能の統合や交通機関の予約、二次交通との連動などを一元的に行なうMaaSは、今後の交通サービスの中で重要になってくると考えています。ユーザーのみなさんがシームレスに移動できるように、サービスのあり方を継続的に検討しています。

 

―― 決済機能では、ヤフーはかんたん決済やPayPayなどといったサービスを有していますね。

 

山本氏 PayPayのようなグループサービスとの連動は、今後の可能性の1つとして、検討しています。理想的な形としては、乗換案内アプリが進化して、経路検索してから鉄道の指定席などの移動サービスを一括で予約して、決済できるような「オール・イン・ワン」なアプリになると、ユーザーさんにとっても便利になるでしょう。その中で、たとえばPayPayやLINEのような自社グループ内のサービスとの連携は考えられます。

 

ただし、ヤフーのサービスで完結する方法だけにこだわりません。たとえば、JR東日本の「えきねっと」との連動では、Yahoo!乗換案内の路線検索に表示されるリンクから、えきねっとの予約ページへ遷移して、検索結果に表示された新幹線などの乗車券、特急券をそのまま予約できるようになっています。

↑JR東日本の「えきねっと」と連動して、検索結果から切符の購入画面を開けるようになっています(出典:https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2022/10/03c/

 

最終的には、ヤフーの路線サービスが掲げている「目的地での体験を最大化するために、移動における不安や手間を取り除く情報を届ける」というミッションを実現できるように、これからもサービス改善に取り組んで参りたいと考えています。

 

取材を終えて:

日常的に電車やバスを使う人々にとって、乗換案内サービスは手軽で便利なツールです。取材を通して、普段意識していない身近なサービスの裏側に隠された工夫の一端を伺い知ることができました。

 

今、交通分野では「MaaS」というITで移動体験を向上させる取り組みが急速に広がっています。乗換案内アプリはMaaSにおけるハブとなり、大きな変貌を遂げるかもしれません。

 

一方で、Yahoo! JAPANを運営するZホールディングスは、2023年10月にLINEと経営統合し、LINEヤフー社としての新体制に生まれ変わります。すでにLINE内の検索機能がYahoo!検索に置き換わるなどいくつかの連携が見られますが、LINEとヤフーが一丸となってサービス開発に挑める状況になるまでには、まだ時間がかかりそうです。

 

Yahoo!乗換案内がLINEとの連携を実現したときに、どのような便利にサービスが生まれるのか、その未来も期待したいところです。

 

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