「週刊GetNavi」Vol.49-4
ハードウエアとして、ペンとタッチを搭載したPCは珍しいものではなくなった。もともと、プロのイラストレーターや漫画家の間では、外付けのペンタブレットを使うことが定着していたが、それに近い要素を持つPCが増え、「ペンを使って作業ができる」環境は整いつつある。
一方で、プロのイラストレーターなどを除くと、「ペンを活用している」という人は、機器の普及に比べ増えていない。「ちょっとあると便利」な時に使える、という意味ではプラスだが、「ペンがないと困る」という人が劇的に増えた、という状況にはない。タッチ操作も同様で、何かをみる「タブレット的用途」ではともかく、何かを作り、編集する「PC的な用途」では、タッチ操作が必須という人はまだ少ない。
PCにおいて、ペン&タッチが本当にブレイクできない理由はなんだろうか? 「そこまで必要ではなく、あればいい程度」という考え方はあるし、実際、それでもいいのかもしれない。一方で、ニーズが開拓できない理由として、「アプリの不足」があることも否めない。マイクロソフトやアドビの定番アプリケーションや、いくつか専門性の高いソフトはあるが、メモやアイデアスケッチ、ワークフロー構築など、よりビジネスアプリケーションに近い部分や、ユニークな操作性による「Windows PC向けの」ペンアプリは意外なほど増えていない。
一方で、AppleのiPadではペンを使ったアプリがどんどん増えている。iPad Pro用のアクセサリーであるApple Pencilは精度が高く、イラストレーターの仕事にも耐えうる。一方、メモなどのより一般性があるアプリも多数発売されており、日常的に「ペン」を活用するには、Windowsよりもよい環境が整っている。
もちろん、iPadにはたくさんの弱点がある。「ファイル処理」が弱く、多数のファイルを扱って「iPadだけで他人に渡せる形にする」のは難しい。できなくはないが、PCと連携して使った方が効率がいい。PC上でプロが使うツールは、そのままの規模・機能ではiPadの上で提供されていないので、別のツールを使う必要がある。
しかし、日々多くのアプリが登場するため、iPadでの作業環境は改善が進んでいる。iPad Proと「ペンやタッチのないPCやMac」を組み合わせて仕事しているプロも、いまは多い。
パワフルで機能も揃ったPCより、iPadの方にアプリが増えている理由は、「アプリを買う」という環境がまだ成立しているからだ。あなたが「全く新しいPC用アプリを最後に買った」のはいつだろうか? PC向けのアプリ市場は停滞してしまい、新しいものがなかなか売れづらい。
一方でiPadでは、AppStore経由でのビジネスが定着し、アプリを「買う」層が育っている。単価は小さいが、それでも、新興ソフトメーカーには大切な市場だ。Windows上にもアプリストアはあり、そちらでビジネスはできるが、残念ながら、規模がiOS向けとは比較にならない。だから、Windows用のペン&タッチアプリは、iPadのものほど新しいものが出てこないのだ。
マイクロソフトがWindowsをペン&タッチで差別化するのであれば、アプリストアの有用性・ビジネス価値の再構築が急務だ。
●Vol.50-1は12月22日(木)発売の「ゲットナビ」2017年2月号に掲載予定です。