デジタル
デジタル周辺機器
2024/3/25 11:30

アイデア商品はなぜできた? 片手でプラグ抜けるエレコム電源タップの開発経緯を聞く

GetNavi webが運営する有料のコミュニティサービス「GetNavi Salon」でちょっとした話題になった製品があるとのことで、編集部から連絡を頂いたのが、エレコムの新商品である電源タップ「イージーリリース6口タップ」だ。

↑エレコム「イージーリリース6口タップ」

 

このイージーリリース6口タップは、片手でプラグを外せるレバー機構を全口に備えていることが特徴で、ラインナップは通常タイプと、底面に磁石を備えスチール部分などに貼り付けることができる磁石付きの2タイプ。いずれも6口で、ケーブル長は1m、2m、3mの3種類から選べる。

 

底部には回転するフックを内蔵しており、壁掛け使用にも対応するなどさまざまな場所で使えるよう設計されている。

↑フックを出せば壁掛け使用にも対応

 

GetNavi Salonのコミュニティに参加しているメンバーからは「片手でタップを押さえながらプラグを引き抜く必要がなく、手の力が弱い人でも片手で簡単にプラグを抜けるアイデア商品」「こういう物理的にできる改善は素晴らしい」「抜き差しが多い場合はかなり重宝しそう」など、好意的な意見が散見された。同じように思っている人はおそらく一定数いるのだろう。

 

ほかでは見たことのないユニークな機構を備えた製品ではあるが、どのような意図でどういった層をターゲットに開発されたのか。今回はエレコムの製品開発担当者にメールインタビューを行なうことができたので、まずはそちらを紹介しよう。

 

差込口側にプラグを抜きやすくする機構の搭載を思いついた

今回インタビューにお答えいただいたのは、同社のパワーサプライデバイスチームに所属する坂口申悟さん。電源まわりの製品を主に開発されているそうだ。

 

――この製品の開発のきっかけは?

 

坂口さん:弊社にはUSB充電器にこのようなプラグが楽に抜ける機構を備えた製品がすでに存在しており、年齢や障がいなどで手が不自由な方や、力の弱い方などから好評でした。しかし、そのUSB充電器だけでなく、日頃から使用するあらゆる電子機器が抜きやすくできれば、より便利になると思いました。

↑イージーリリース機構を備えたUSB充電器「MPA-ACCP31WH」

 

そこで、プラグ側ではなく、差込口側にプラグを抜きやすくする機構を搭載すればいいのではと思いつき、この電源タップを開発しました。

 

――どのような層をターゲットに想定しているか?

 

坂口さん:老若男女、誰でも使いやすい製品であることを前提としていますが、特に片手が不自由な方や手の力が弱い方に便利に使っていただけると考えています。また、プラグの抜き差しが頻繁な環境、たとえばフリーアドレスのオフィスなどにも適した製品です。

 

――参考にした商品は?

 

坂口さん:前述の通り、MPA-ACCP31WHが自社商品として存在していましたので、それは参考にしています。それ以外にも身の回りにあるレバーの付いた製品をいろいろと触りながら、その形状やサイズ、動きなどを参考にしました。

 

自然に指を置くよう促すデザインなど、レバー機構にこだわり

――レバー機構の開発が肝だと思うが苦労した部分は?

 

坂口さん:当初はできるだけ筐体を小さくするためにレバーをL字型に折り曲げて、側面から押し込む形状で検討していたのですが、プラグを接続した状態ではレバー操作が難しかったり、力を入れにくかったりしたため、現在のような上から下に押し込む構造に変更しました。このことによってレバーを押し込む際に手の重さを利用でき、接地面というストッパーができるので、片手でもより力を伝えやすくなりました。

 

しかしその分、筐体には奥行きが出てしまいますので、使用感とサイズのちょうどいい部分を見つけることに苦労しました。何度も3Dプリンターで試作を繰り返し、たくさんの人に実際に試してもらいながら意見を集めて、できるだけ奥行きが大きくならないように構造を調整していきました。

 

――特にこだわった部分は?

 

坂口さん:レバー機構の使用感です。前述の通り、どのようなレバー形状にするのかは何度も検討を重ねました。また、一見わかりにくいポイントかもしれませんが、テコの原理を最大限発揮してもらうためにはレバーのできるだけ端を押す方がいいので、レバーの端に指型の凹みや目印にもなる滑り止めを設けるなどして、自然とそこに指が置かれるように促すデザインとしています。

↑見た目ですぐわかるよう、しっかりと凹みが付いている

 

また、機能だけでなく形状やデザインにもこだわっています。この製品はその特性上、人目に付くところへの設置も想定されるため、ほかのインテリアの邪魔にならないよう、できるだけシンプルな形状とし、機能優先だからといって野暮ったくならないように気を付けました。

 

――開発にはどれぐらいかかった?

 

坂口さん:ほかの商品の開発も同時に進めていたこともあって、着想から実際に開発を始めるまでに半年くらいブランクが空いてしまいました。その後、外観や機構の設計調整に半年くらい、商品化が決定してから発売するまでにさらに半年くらいかかっています。着想から発売まで1年半ほど要しました。

 

電源タップはシーンが決まってないので、複数の設置方法を可能に

――この製品がマグネットやフックなど多彩な設置方法にこだわっている理由は?

 

坂口さん:電源タップはどんな場所、どんなシーンで使うということが案外決まっていない製品なので、より多くの場面でユーザーが使いやすくなるよう、いろいろな設置方法ができる製品を目指しました。ただ、磁石は近年価格が高くなっているので、型番別で有無を設定してユーザーが選べるようにしています。

 

――安全面でのこだわりは?

 

坂口さん:弊社製品で標準的な安全仕様である「雷ガード」や「ホコリ防止シャッター」、「絶縁スリーブ」「熱硬化性樹脂を用いた二重構造筐体」などは、本製品でもしっかりと備えています。特にホコリ防止シャッターは、差込口中央にプラグを押し出すためのバーが配置されるため、普段ほかの製品で採用している構造が採用できず、この製品のために設計をイチからやり直す必要がありました。

 

また、吊り穴やフックとなる底面両端に配した回転するパーツは、展開することで構造上差込口を端に寄せざるを得なかった本製品の横転を防止することができます。横転することでACアダプターが半差しになるのを防ぐ効果も期待できます。

↑ACアダプターなどを複数挿すと重みでスイッチ側が浮いてしまうところ……

 

↑フックを手前に出すとタップを支えて安定させる効果がある

 

――現在は6口タップのみだが、2口や4口などのラインナップ展開の予定は?

 

坂口さん:実験的な商品のため、営業部と相談のうえ、とりあえず6口のみの発売としましたが、もし一定の需要があるのであれば今後口数やケーブル長の異なる商品も出せればと考えています。

 

指1本で簡単に電源プラグが抜ける

続いて、本製品を購入して実際に使ってみたので、そのレビューもお届けしよう。購入したのは磁石なしの通常タイプでケーブル長は2mのもの。エレコムの直販サイトでの価格は3480円(税込)。磁石付きは同じ2mのものでも3980円(税込)と500円高くなるので、使用環境に応じて磁石の有無を選ぼう。

↑購入したのは磁石なしでケーブル長2mのもの

 

まず箱から製品を出して思ったのは、「結構大きいな」ということ。プラグを抜きやすくするためのレバー部分の分だけ、どうしても一般的な電源タップより奥行きが出てしまうのは仕方ない。とはいえ、デスクに置くとそれなりの存在感になる。

 

筆者は普段、自宅のデスクまわりでノートパソコンとスマホの充電用に3口の小さな電源タップを使っているので、6口だとかなり持て余してしまう。インタビューでも質問したが、もう少しコンパクトな2口~4口タイプも発売していただけるとありがたい。

 

デザインはシンプルで無駄がなく洗練されているので、オフィスでも自宅のリビングでも場所を選ばず使えそうだ。個人的にはなんとなく無印良品のプロダクトっぽさを感じた。

 

本製品のキモでもあるレバー機構の使用感だが、商品説明の通り、スイッチ部分を指で押すだけで電源プラグも重いACアダプターも簡単に抜くことができる。てこの原理を利用しているため、力をいれなくてもスッと抜けるので、小さなお子さんや高齢者にも使いやすいだろう。これなら頻繁にプラグの抜き差しがあってもストレスを感じず使えそうだ。

↑スイッチ部分を押すとレバーが持ち上がりプラグを押し上げて抜ける仕組み

 

一般的なプラグやACアダプター、スマホの充電器など自宅にあるさまざまな形状のものを試してみたが、このレバー機構で抜けないものはなかった。国内で流通している一般向けの製品なら、だいたいのものは使えるだろう。

 

筆者が電源タップを購入するとき、最も重要なのは実は各口間の距離で、これが狭いものはACアダプターを挿したとき隣の口が使えなくなってストレスになることもある。本製品は各口のあいだがそれなりに空いているので、ACアダプターを挿しても隣の口を塞いでしまうという事態は起こりにくい。レバーの位置の関係上、レバーの反対側からしかプラグをさせないので、設置位置には少し気を使うかもしれない。

↑ACアダプターを挿しても隣の口が塞がらない

 

底面のフック部分を出せば安定感が増すので、重めのACアダプターを複数挿しても倒れにくくなるのは便利。底面にはシリコン製すべり止めも付いており、ズレを防いでくれる。

↑底面にはシリコン製すべり止めが備わっている

 

フックは壁掛け用にも使えるので、デスク上や設置場所が限られるところでの使用も可能。ただし、ACアダプターなどを複数使っていると結構重くなるので、重さでフックを掛けたピンなどが外れて落下しないように気をつけるべし。

 

細部まで考えられたプロダクト設計に脱帽

インタビューでも坂口さんのこだわりや思いが伝わったが、実際に使ってみると細かいところまで考えて設計されたのがわかる、とても日本のメーカーらしい製品だと感じた。特に、フックを脚のように使って安定感を高めるところなんか、よく考えられているなぁと感心してしまった。

 

本製品は片手が不自由な人や力の弱い高齢者にも使いやすいユニバーサルデザインを目指したものではあるが、近年増えているフリーアドレスオフィスなど、頻繁にプラグを抜き差しするような環境での需要もあると思う。価格は一般的な電源タップに比べてやや高いが、間違いなくこの機能を必要としている人もいるだろう。

 

電源タップの抜き差しにストレスを感じている人や、家族や周囲の人がお困りの方はぜひエレコムのイージーリリース6口タップを試してもらいたい。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)