Vol.136-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは最近増加中の“耳をふさがないイヤホン”。イヤホンやヘッドホンの主目的が生成AIによって拡大している。その内情を解説する。
今月の注目アイテム
HUAWEI
FreeClip
実売価格2万7800円
ヘッドホンの主たる用途は、いうまでもなく「音を聞くこと」。音楽がまず思いつくが、いまはもっとニーズが増えている。
聞くことと同じように重要になったのが「話すこと」。音声通話やビデオ会議などで、マイクを通じた声の音質が大切、という認識は特にコロナ禍で拡大。いまやスマホ向けだけでなく、PCにつないで利用することも一般的になっている。
聞くことと話すこと、双方を生かすものとして今後重要になってくるのが「AIアシスタントとの連携」だ。いまもヘッドホンをスマホから使う場合、SiriやGoogle アシスタントなどの音声アシスタントに命令を与えたり、スマホの通知を読み上げさせたりすることができる。つけっぱなしで使いやすいヘッドホンは、スマホと人間の間をつなぐ機器として活躍する可能性が高いのだ。
そうした要素は、今後さらに重要になっていくだろう。なぜなら、生成AIの登場によって、音声アシスタントの機能・価値がさらに高まると予想されているからだ。
これまでの音声アシスタントは、命令に対して音声で答えるだけだった。だが、生成AIでより人間に近い回答ができるようになっているので、文字どおりアシスタントのように振る舞い、さまざまな情報を届けてくれるようになる可能性が高い。そうしたアップデートは、特に今年、アップルやGoogleのスマートフォン向けOSに組み込まれていくことになりそうだ。
当然、OSのプラットフォーマーもヘッドホンに力を入れる。だが同時に、OSは持っていないがAIは持っている……という企業にとってもチャレンジすべき事柄になってくる。特にMetaやHUAWEIがこのジャンルに積極的なのはこのためだ。
現状、AIだけを持っている企業は消費者にアプローチする手段が限られている。しかし、AIが優れているかどうかは消費者に見えづらいが、ヘッドホンの良し悪し・デザインの違いは目立つため、ヘッドホンを活用して新しいテクノロジーを提案できれば、そこを接点として顧客を拡大できる。
たとえばMetaは、アメリカなどの市場で「RayBan-Meta」というスマートグラスを発売している。非常に音質が良いこと、内蔵のカメラを使って“自分の見た目”の映像をライブ配信できることなどから、ちょっとしたヒット商品になっている(残念ながら、日本では未発売)。
この製品で、Metaは画像や音声を認識できる生成AIを活用するようになっている。カメラで撮影した映像に含まれる風景がどんなものか、AIが認識して答えを返したりできる。現状ではそこまで役に立つわけではないが、今後生成AIの技術がさらに進化し、スマホの中で処理されるようになっていくと、“自分が見ているものをAIも見ていて、必要なときに助けてくれる”という形に変わっていくはずだ。
ではそのとき、「音声と連携するAI」はどのように我々の生活を変えていくことになるのだろうか? そのあたりは次回解説しよう。
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