Vol.137-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。Photoshopで有名なアドビもビジネス化に取り組んでいるが、ほかと比べて先行している部分を解説する。
今月の注目アイテム
Adobe
Firefly
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IT大手は競うようにして生成AI技術の開発を進めている。
実のところ、生成AI技術「そのもの」の最先端は、研究者やエンジニアが日々公開しており、OpenAIやGoogleだけが開拓しているわけではない。だが、そうしたものは「技術」であるがゆえに一般には見えづらい。サービスやソフトウェアとして実装され、“なにができるか”が明確になる必要がある。
アドビがやっていることは、「画像などを生成するAIがあるが、それはどういう点に気をつけながらビジネスに使うべきか」ということの可視化、と言える。
アドビの生成AIである「Firefly」は、2023年3月にスタートした。画像生成AIが注目され始めたのがさらに1年ほど前なので、大手の動きとしてはかなり素早いものだと思う。
Fireflyの特徴は、学習するデータとして、古くて自由に使えるようになった作品に加え、同社のフォトストックサービスである「Adobe Stock」の中で、学習して問題ないと許諾がされたものや、特定の著作物と関係しないものを選んでいるという点にある。
生成AIは学習するものによって出てくる結果が変わる。ビジネスで使う場合、意図せず他者の著作物に近いものを使ってしまうというリスクは確かに存在する。そこで一定の防止策として、学習ソースを限定し、より安心して使えるように配慮したのがアドビの施策だ。
もちろん完璧ではない。海賊版も含め、他者が権利を持つ著作物が学習内容にひとつたりとも含まれていないと保証することは難しく、実際、漏れはあるようだ。
だが、そうした処理がない生成AIよりはずっと安心して使える。
またポイントとして、いわゆる著作権侵害については、生成するという行為ではなく“生成したものを公開すること”が起点になる、ということも重要だ。公開するものを作るなら、そもそも他人のものを真似るような命令を与えるのは避けるべきだし、できあがったものが“他人の著作物に似ていないか”“間違いがないか”は確認しておく必要がある。
実のところ、企業向けの生成AIでは、「正統なルールの中で出力したもので訴訟になった場合、その費用はサービス側が負担する」というルールを持つものが多い。マイクロソフトやGoogleもそうだし、アドビもそうだ。「企業向けのサービス」で「ルール通りに使った場合」だけである点に留意する必要はあるが。
だとすれば、「より安心できる学習基盤で」「精査したうえで公開」が基本となり、それがしやすい環境を提供するサービスが求められるわけで、アドビが狙っているのはそういう路線なわけだ。さらにPhotoshopやAdobe Expressのような「作りやすいツール」とFireflyを組み合わせることで、ビジネスで使いやすい基盤を作ることが収益につながる、という話になる。
生成AIそのもの以上に、そうした「ビジネスのためのツールの整備」という部分が、アドビが他社に先んじている部分である、ということもできるだろう。
では、そのうえでどのようにツールを整備しているのだろうか? その点は次回解説したい。
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