Vol.142-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。
今月の注目アイテム
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
PlayStation 5
7万9980円~
10年前まで、ゲーム機は“最初の発売から時間が経てば価格が下がるもの”だった。
しかし現在はそうではない。その傾向は2013年に発売された「PlayStation 4(PS4)」や「Xbox One」世代から見え始めた。
その前の世代のハードウェアであるPlayStation 3は発売当初6万2790円からだったが、2014年には2万5980円まで値下げされた。しかしPS4は発売当初4万1979円で、最終的な価格は3万4980円。1万円も下がってはいない。
PS4やXboxの後に出た「Nintendo Switch」も同様だ。標準モデルの価格は2万9980円のまま。その後発売されたコントローラー脱着機構のない「Lite」は1万9980円で、実質的な値下げという側面もあるものの、ハードウエアの価格は基本変更していない。
同時にこの世代では、「PlayStation 4 Pro」「Xbox One X」といった、性能アップした上位機種が出るようにもなっている。これは通常モデルとハイエンドモデルとを天秤にかけるユーザーを引き込む施策であると同時に、値下げはせずに性能アップでバリューを上げる施策でもある。
ゲーム機の値下げが難しくなったのは、半導体製造コストが上がり、技術進化による“同一性能部品のドラスティックな値下げ”も難しくなってきたためだ。
一般に信じられているのとは異なり、ゲームプラットフォーマーは“ゲーム機を赤字で売ってソフトで儲けている”わけではない。販売初期、マーケティング費のかかる時期に“トータルコストでは収益が出ない”状態で売ることはあるが、そこから台数を早期に積み増し、“利幅は薄いがきちんとハードからも儲ける”のが鉄則だ。ハード販売の後期に安くなっているのは“それでも利益が得られるので、価格の魅力でユーザーを惹きつけたいから”に他ならない。
だが現在はもうハードを安価に作れないので、価格も収益も維持してビジネスを進めるのが一般的になっている。どのメーカーもこの10年同じ戦略を採っており、今後も“ゲーム機は待っても値段が下がらない“と考えて良い。例外があるとすれば、ここから大幅な円高がやってきて1ドル数十円単位で価格変動する可能性が出たときだろう。
その中で、各社のゲームハードは価格が違う。
任天堂は為替想定もあえて円高設定のまま据え置き、日本国内販売への価格影響を小さなものにする。同社は他社以上に日本市場の比率が大きく、低年齢層への普及も目指すので他社より安価な値付けをする。そのために為替リスクを飲み込んでいるわけだ。
マイクロソフトは今世代(Xbox Series X/S)にて、為替の影響による価格改定をしている。値付けは異なるが、考え方としてはソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に近い。
特にSIEの場合には、販売の海外比率が非常に高いこと、為替と連動しない内外価格差を大きくすると“海外への転売”が増えて品不足への影響も出やすくなることなどから、国内ビジネスで不利になったとしても“為替に合わせて価格を改定する”ことにしたのだろうと推測できる。
ではその中で、ゲーム機ビジネスはどうなっていくのか。その点は次回のウェブ版で解説する。
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