Vol.143-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。
今月の注目アイテム
Meta
Meta Quest 3S
4万8400円~
多くの機能を引き継ぎ安価に提供する狙いは
Metaは10月15日から、新しいVR機器である「Meta Quest 3S」を発売した。
同社は昨年「Meta Quest 3」を発売しており、一昨年は「Meta Quest Pro」を発売した。3年連続での新製品発売となるのだが、今年の製品は過去とは位置付けが異なる。というのは、Quest 3Sは、Quest 3の明確な廉価版だからだ。新製品は“機能アップして買い替えを促すもの”というイメージがあるが、Quest 3SQは違う方向性だ。
簡単に言えば、3Sは2020年発売の「Meta Quest 2」よりも2倍のパフォーマンスを実現しつつ、Quest 3のカメラやプロセッサーやソフトウエアを使い、「多くの機能をQuest 3から引き継いで、できる限り低価格に提供できるようにした製品」だ。価格は299ドル(日本では4万8400円)からで、7万4800円からだったQuest 3よりかなり安くなった。
では安くなったぶん機能や画質が大幅に劣るのか、というとそんなことはない。筆者も実機を体験してみたが、VR向けのゲームや周囲の状況を確認しながらVRを体験したりするぶんには、Quest 3と3Sの差は非常に小さい。ソフトウエアの互換性も完全に保たれている。
このタイミングでMetaはラインナップの整理も図った。Quest 2とQuest Proは在庫限りで販売を終了、Quest 3も512GBの最上位モデルを8万1400円に価格改定し、それ以外のモデルはQuest 3Sになる。
すなわちMetaは、一気に価格を下げつつラインナップを整理し、販売管理費もスリム化してきたということなのだ。
アメリカ市場を見据え販売ライン整理を図る
Metaが在庫を「3」ベースの製品に絞った理由は2つある。
ひとつは、ゲーム開発環境としてより高性能なものを基盤としたかったこと。そのほうが開発効率は上がるし、高度なゲームも提供しやすくなる。
2つ目は、価格を下げていくことがビジネス上必須になってきたからだ。
Quest 3とQuest 3Sは性能面ではほぼ同等。解像度が下がっている関係から、ウェブの文字表示や映画視聴などでは"若干画質が下がったかな……"と感じるくらいだ。現状はゲームを中心に売れているので、この違いよりも価格の違いの方が影響は大きい。Quest 3の利用者が3Sに買い替える必要はないが、より多くのユーザーを惹きつけるには、高価なモデルよりも低価格なモデルが必要……ということなのだ。
日本ではVRというとマニア市場が中心なのでハイスペックなものから売れていくが、アメリカではそうではない。Quest 3発売後も、299ドルで販売されていたQuest 2が、年末商戦などに向けてヒットすることが多かった。
そう考えると、Quest 2と同じ値段でより高い性能の製品に"ラインを揃える"ことが必要になってきたのだ。
Metaはなぜ価格を下げることに注力したのか? そして、同時発表されたプロトタイプ「Orion」との関係は?
その点は次回以降で解説する。
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