嗚呼、サブカルチャーの牙城シネマライズ閉館……
2016年1月7日、東京・渋谷のミニシアター、シネマライズが30年の歴史に幕を閉じました。
ただの映画館ではなく、1980年代の西武セゾン文化から1990年代の渋谷系という、渋谷が一番面白い街だった時期にオープンした“サブカルチャーの牙城”のひとつでもあったので、感慨もひとしおだった人も多いのではないでしょうか。
ここで上映される映画はアーリーアダプターといわれる層の話題にのぼることが多く、クエンティン・タランティーノのデビュー作「レザボア・ドッグス」や、いまやハリウッドスターになったユアン・マクレガーの初期作「トレインスポッティング」(続編の企画が進行中という話!)、マサラムービーブームを巻き起こした「ムトゥ 踊るマハラジャ」、女子カルチャーのマスターピース「アメリ」など、小規模公開とは思えない影響力を残す作品ばかりでした。現在、世界的人気俳優のブラッド・ピットの(ほぼ)初主演作「ジョニー・スエード」をいち早く公開したのもシネマライズ。
現在、U-NEXTでは「さよならシネマライズ」という企画が始まっています。ラインナップは以下のとおり。
「ロッキー・ホラー・ショー」
「バグダッド・カフェ ニュー・ディレクターズ・カット版」
「カストラート」
「ベルベッド・ゴールドマイン」
「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」
「ヒトラー ~最期の12日間~」
「秒速5センチメートル」
「ぐるりのこと。」
「母なる証明」
「レスラー」
「フローズン・リバー」
「ヒミズ」
「英国王のスピーチ」
「鑑定士と顔のない依頼人」
「SHAME-シェイム-」
「グランド・ブダペスト・ホテル」
並外れた嗅覚で低予算の西ドイツ作品を発掘!
単館公開映画の代名詞「バグダット・カフェ」は西ドイツ映画! まだベルリンの壁があった頃の作品です。低予算で有名な俳優も出ていないのに(しかもヒロインは太った中年女)、主題歌「コーリング・ユー」とともにいまでも支持されているこの作品を発掘した嗅覚はすごいと思います。ゆる~っと見られるので、予定のない休日などにどうぞ!
「バグダッド・カフェ – ニュー・ディレクターズ・カット版」
1987年(オリジナル)
2008年(ニュー・ディレクターズ・カット版)
ドイツ映画
108分
初公開の1987年以来、世界中のアーティストがカヴァーした名曲「コーリング・ユー」と共に、多くの熱狂的な支持者を生み出した伝説の“ミニ・シアター”ムーヴィー。2008年に監督自身が全カットのトリミング、色を調整しなおした、目にも鮮やかな<ニュー・ディレクターズ・カット版>です。 監督・脚本:パーシー・アドロン
音楽:ボブ・テルソン
主題歌:ジェヴェッタ・スティール
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス
(C)2008 KINOWELT INTERNATIONAL GmbH
現代の社会情勢について考えさせられる作品もあり
ほかは、貧困と不法移民を描いた「フローズン・リバー」をぜひチェックを! ていろいろ考えさせられる1本です。困窮のため凍った川での不法入国を手助けすることになったヒロインの心情は、いまこそより強く私たちの心に訴えるものがある気がします。また、キナ臭い政界の合わせ鏡(?)的作品、「ヒトラー ~最期の12日間~」などなど、時代を映してきたシネマライズのチョイスをご堪能ください。
筆者の近年の「私的シネマライズ」としては、韓国映画「息もできない」で泣き、謎のストリートアーティスト・バンクシーが監督したドキュメンタリー「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」でワクワクし、マサラムービー「恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム」で踊った感じです。ありがとう、シネマライズ! またどこかで。
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文/上杉久代:イラストレーターなどとして活躍。最近の日本エンタメ界には山城新伍成分が足りないのではないかと危機感を抱いている中年女子。